女性皇族として初めて海外で博士号を取得された彬子女王殿下。その英国留学記『赤と青のガウン オックスフォード留学記』は「プリンセスの日常が面白すぎる」という一般読者のX投稿をきっかけに話題となり、瞬く間にベストセラーとなりました。
本稿では、彬子女王殿下のお側で警衛にあたる「側衛さん」への思いが綴られています。ほしよりこさんの絵とともにお楽しみください。
※本稿は、彬子女王 著、ほしよりこ 絵『飼い犬に腹を噛まれる』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
一番近くにいる他人?
先日友人に、「彬子様にとって、側衛さんって一番近くにいる他人ですよね」と言われた。「なるほど」と思った。
でも、いまひとつピンとはこなかった。なぜかと考えてみて気付いたのは、私は側衛が他人だという感覚があまりないということである。
皇宮警察の護衛官(側衛)は、私が生まれたときから側にいる。物心ついたときから、一緒にいるのは当たり前だったし、宮家の職員も、皇宮警察、警視庁、各道府県警の人たちも、家族のように思ってきた。
ずっと「お父さん」のように思ってきた側衛たちとの年齢差が徐々に縮まっていき、1歳年上の「お兄さん」がやってきたときは愕然としたものだが、今はあまり手のかからない「弟」とも仲よくやっている。
我が家は代々個性が強めの側衛がやってくる傾向にあるのだが、私に「護られる」ことの意味を教えてくれた人がいた。彼は、国士舘大学国防部出身の、筋金入りの「国士」だった。
学生時代、同期の友人と遊びに行き、お茶を飲んでいたときのこと。友人が側衛さんに、皇宮警察とは何かを根掘り葉掘り聞いていた。知っていることも多かったので、なんとなく耳を傾けていたのだが、ある話がずんと心に刺さった。
「この人を護れてよかった」と思ってもらえる人間にならなければ
皇族を護ることを警衛、要人を護ることを警護、モノや建物を護ることを警備という。
「要人警護は、その人の立場を護るものだけれど、皇族は、存在そのものが大切なのであり、彬子様の代わりはどこにもいない。だから我々は命を懸けて御護りしなければならないし、そんな大事な仕事をさせてもらえていることを俺は本当に幸せに思っているんだよ」と、友人に真摯なまなざしで懇々と語っているのを聞いたとき、私は初めて自分を護ってくれている人がどのような思いで任務にあたっているのかを知り、背筋が伸びるような思いがした。
これが、警察の人たちに「この人を護れてよかった」と思ってもらえる人間にならなければいけないと私が思うようになったきっかけだった。ちなみに友人は、この話を聞いて以来すっかりその側衛さんのファンになり、まるで舎弟かのように慕っていた。顔は怖いけれど、心の熱い一本気な魅力のある人だった。
彼は結婚するとき奥様に、「自分は皇族方の盾になって、いつ死ぬかわからない。そうなったとき、顔を見なかったと君に後悔してほしくないから、どんなことがあっても毎朝見送ってほしい」と頼んだそうだ。
新婚当初は家の角までだったのが、玄関先になり、玄関の内側になってはいるけれど、奥様はどんなに朝早くても、喧嘩をした翌日でも、体調が悪くても、必ず見送ってくれるのだそうだ。職務に忠実で、奥様思いの彼らしい話。こんな人に護られている私は幸せだと心から思った。
担当を離れた今でも、何かあると彼に相談したり、意見を求めたりする。心が揺れかけたときでも、ぶれない答えをいつも返してくれる彼は、信頼できる大切な「家族」のひとり。一番近くにも、遠くにも、私には血のつながらない家族がたくさんいることを心強く思っている。