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進むべき道を選び出す「直感力」の磨き方

羽生善治(将棋棋士)

2013年01月25日 公開 2024年12月16日 更新

AI技術の進展などにより、変化のスピードが速くなり続けている。新しい知識や技術もどんどん登場する。過去に得た知識が陳腐化するのも早い。

しかし、せっかく積み上げてきた経験がムダになるわけではない。むしろ、いまこそ、経験によって磨かれた直感が羅針盤になるのだ(取材・構成:川端隆人/写真:永井浩)

※本稿は『THE21』2013年1月号より一部抜粋・編集したものです

 

直感で方向性を定めロジックで詰める

ある局面で、「この手しかない」と最善手が一瞬にしてひらめく。直感が判断をする際にどれほどの力を発揮するか、いかにして直感を磨くかが、羽生氏の近著『直感力』(PHP新書)のテーマだ。羽生氏は、キャリアを積むなかで、直感力の重要性は徐々に増していったと話す。

「局面をみて最初に思いついたことは、ある意味で邪念がないアイデアです。

もちろん必ず正しいとはかぎりません。しかし、自分の発想や考え方が端的に現われているアイデアのはずです。さらにじっくり考えるにしても、そこから出発して考えを組み立てていくほうが自然で、やりやすいのです。

私が直感に重きを置くようになったのは棋士になってある程度経験を積んでからのことです。10代でプロになったころは、ロジックが8~9割を占めていました。

というのは、直感的に判断しようにも、直感のもとになる経験がないからです。そこで、いわば物量作戦のように、考えられる手をしらみつぶしに考えていくしかなかった。

それが、10年、15年と経験を積むうちに、思考の最初の段階でおおざっぱに『だいたいこのあたりかな』と予測して、そこから細かいところをロジックで詰めていくという方法に変わっていったのです。

若いころのやり方といまのやり方の、どちらが優れているということはありません。ただ、多くの選択肢があるなかで一手を選ぶとき、しらみつぶしに考えていくと時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。将棋の対局は時間制限がありますから、だいたいの目星をつけることが重要なのです。

それはちょうど、地図を使って目的地にたどり着くプロセスのようなものです。たとえば日比谷公園にいきたいとして、東京中をくまなく歩きまわるわけにはいきません。まずは地図で目星をつけて、近くまで電車やクルマでいく。そのうえで、最後は自分で一歩一歩歩いていかなくては目的地には着かない。直感とロジックの関係はそういうものだと思います。

ただ、直感は便利で使い勝手のいいものではあるのですが、あまりに頼りすぎるのは危険です。いいところは突いているけれど、正確さに欠ける、ということになってしまいますから。

ほんとうはロジックと直感の両方を伸ばしていくのがいいのでしょうが、この2つは『片方を伸ばすと、もう片方が疎かになる』という関係にある気がします。『最近、直感が冴えてきたな』と思うと、読みが雑になる(笑)。そのあたりをどうコントロールするかは、私も悩ましいところですね」

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知識が陳腐化しても経験はムダにはならない

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