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課題解決の新技術 「探求型思考」 を身につけよ

炭谷俊樹(神戸情報大学院大学学長)

2013年02月15日 公開 2022年12月07日 更新

『実践・課題解決の新技術』より》

今求められる考え方の転換

最近、「日本の企業からはなぜ iPhone のような革新的な製品が生み出されないのか」「グローバルに活躍する人材はなぜ生まれないのか」といった質問をよく聞きます。

私はその原因は、ここ数十年の日本の社会、企業、学校教育、家庭に根強い、以下のような考え方にあると思います。

1つは、目標を自分で考えるのではなく上から与えられること。情報も自分で探すのでなく与えられます。答えも自分で探すのではなく、「正解」と思われるものを与えられます。そして、その正解に到達するものがよしとされることです。

もう1つが、過度に進んだ専門化・細分化です。企業であれば事業部制や機能別組織、またその中での仕事の専門化が進んでいますし、学校教育であれば、学部・学科や科目の細分化が進んでいることです。

ここではこれらの特徴をまとめて、「偏差値型」の考え方と呼ぶことにします。高度成長の時代には、この偏差値型の考え方がマッチしていました。何をすればよいかは明確であり、与えられた目標の中で、1人ひとりが歯車のように効率よく仕事をしていれば、どんどん経済は成長し、待遇もよくなり、生活レベルは少なくとも物質的には改善していきました。

しかし、時代は変わりました。効率よく仕事をするようなことは、他のアジアの国々にシフトしていき、日本ではもっと付加価値の高い、イノベーティブなことを考えなくてはいけない、また国内にとどまらず、グローバルな視野で展開していかなくてはいけないことはわかっています。

しかしながら、いまだに「偏差値型の呪縛」から抜け出せず、この変化に対応できずにいるのです。

では、どうすればいいのでしょうか。

私が本書で提言したいのは、「偏差値型」に変わる、「探究型」の考え方です。

探究型では、課題や目標は上から与えられるものではなく、1人ひとりが自ら発見します。情報も行動しながら主体的に集め、解決策を自ら立案し、人を巻き込み、協力しながら、粘り強く実行します。

探究型でも専門性は必要ですが、専門バカではだめです。実際に世の中に解決すべき課題というのは、1つの専門知識だけで解決できることはほとんどなく、幅広い視野・経験が必要です。ビジネスであれば、1つのお店の経営改善を行うためには、マーケティングや財務、人事などそれぞれの専門知識ではだめで、さまざまな経験・知識を駆使し、統合的に考える必要があります。エネルギーを含めた環境問題などについても、科学的知識はもちろん、地理的・政治的知見などさまざまな知識が必要です。探究型ではこのような統合的な視野と経験を重視します。

このような探究型の考え方は、会社などの組織の中で働く場合、自らビジネスや会社を立ち上げる場合、あるいは独立した個人で活動する場合でも活用できます。

探究型の考え方に基づいて、個人が行動し、また企業や学校、あるいは家庭が人材育成・教育を行っていくことを通じて、今の時代にマッチした、いきいきと活躍する人材が増え、結果的に活力のある社会が実現されることが期待されます。  

探究型生き方は決して「楽」な生き方ではありません。偏差値型から逃げるわけでもありません。何を解決すべきなのかという課題を発見する必要があるし、その解決のために自らを磨き続ける必要があります。

楽といえば、外から目標を与えられる偏差値型のほうが楽かもしれません。しかしながら、高度成長期ならそれでよかったのかもしれませんが、成熟期の今、偏差値型で走り続けても先は見えないし、幸せを得づらくなっています。

今こそ探究型生き方を選択することで、自ら幸せな人生をつかみ取る努力をしなければならないのです。

 

探究型になるための「探究実践」3要素

では、みなさんが探究型の生き方を実践したいと考えたとすれば、何をどのように進めていけばよいのでしょうか。これも正解はありませんが、自分なりに探究を進めるための考え方やプロセスはあります。私が「探究実践」と名づけたその方法をご紹介したいと思います。

「探究実践」は私が学長を務める神戸情報大学院大学で、入学して最初の必修科目として実施し、学生の2年間の研究活動に役立てています。また、「東京大学i.school」や「日本政策学校」の講義やワークショップもこの方法論で行いました。

「探究実践」は一部の優秀な人だけが実践できるというようなものではなく、その気になれば誰もが実践できます。とにかく実践することが重要であり、やり続けることで何らかの成果が生まれてきます。

まずは「探究実践」の3つの要素を簡単にご紹介しましょう。

(1)社会における「課題」を発見する

まず、自分が身近に感じ探究したいテーマを見つけることから始まります。それは1つでもいいですし、複数あってもかまいません。

社会的な課題というと、環境問題、教育問題など社会全体に関わる大きな課題に取り組まなければならないようなイメージを持つかもしれません。もちろん、国家レベルの大きな問題に取り組んでみでもかまいません。

しかし、探究においては規模の大きさは問題ではありません。親戚や友人など身近な人が直面している課題、あるいは自分が働いている企業や組織内の課題でもいいのです。大事なことは、自分が意欲を持って主体的に取り組むことができるどうかです。そして課題が解決されたときに、1人でもいいので喜んでくれる人がいることが重要です。

(2)自らの「強み」を磨く

探究型で生きるためには自分なりの「強み」を持ち、これを磨き続ける必要があります。その強みが、自分が探究する課題の解決に役立つのです。

強みは大別すると、なんらかの「専門性」と一般的な「人間力」とに分けられます。

「専門性」には特定分野の知識や経験があります。例えば神戸情報大学院大学の場合は、プログラミングやサーバー構築・運用など、IT(情報技術)の現場で使える実践的な技術力を身につけるので、それが「専門性」になるでしょう。

「人間力」は、いわゆる「社会人としての基礎力」のようなもので、一般的な能力を指しています。例えば、人のニーズを聞き、自分の考えを伝える「コミュニケーション力」や、問題の本質をとらえて解決策の仮説を作成したり検証を行う「問題解決力」などが含まれます。

強みを磨くことに終わりはありません。基本的に毎日、何年もかけて磨き上げていってこそ真に役立つ強みとなります。また自分だけで実現できないことについては、別の強みを持つ人と協力して、課題を解決していけばよいのです。

(3)「現場」で課題解決を「実践」する

「探究」というと、1人で思索を深めるようなイメージを持つ方もいるかもしれません。しかし、私がいう「探究」は実践することを前提としています。机上の空論ではなく、一般社会や仕事の現場で課題解決を実践します。

すでに社会人の方やNPO等の活動に関わっている方にとっては当たり前のことでしょう。しかし、実際に社会で働いていない方や学生であっても、社会と関わり現場で実践することが重要なのです。

神戸情報大学院大学の場合、学生が実際にITを使ったシステムを作り、それを誰かユーザーに使ってもらうことで、本当に課題解決につながり、喜んでもらえるかの実践を行っています。

最初から上手くいくものではありません。失敗を経験し、試行錯誤を繰り返すことで、社会で必要とされる人間力を身につけることができるのです。

 

炭谷俊樹

(すみたに・としき)

神戸情報大学院大学学長、ラーンネットグローバルスクール代表

1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10年間日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、阪神・淡路大震災後の1996年、神戸で子どもの個性を活かす「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。
著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンター)などがある。

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