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[自己主張レッスン]私が傷つかない、相手も傷つけない話し方

石原加受子(心理カウンセラー/心理相談研究所オールイズワン代表)

2013年04月18日 公開 2022年12月27日 更新

◇「自分中心」の言い方で答えるとしたら...

「あなたがそんなことを言うとは、思ってもみなかったわ」
「僕は、自分の気持ちを大事にしたいんだ」

「君がそんな期待を抱いているとしたら、僕とは無理だね」
「私は、感情的になって結論を出したくないの。もう一度、話し合えませんか」

「お前が、この家業を継いでくれたら、私たちは安心できるんだよ」
「不安なのはわかるけど、僕も迷っているから、もっと考える時間がほしいんだ」

「あなたさえ、我慢してくれたら、みんなが助かるのよ」 
「ごめんなさい。私はもう、自分を殺して犠牲になるのは嫌なんです」

「いつまで外国暮らしなんかするんだ。仕事は、日本にだってあるだろう」
「正直言うと、僕は、家族から逃げたかったんだ。このことについて、話を聞いてくれる気持ちはあるかなあ」

「早く仕事を決めてくれないと、私たちは心配で、夜もオチオチ寝てられないよ」
「心配なのはわかるんだ。でも、仕事については、僕自身も悩んでいるんだ。何度もそれを言われると、つらいんだよ。自分のことは、自分で決めていきたいから、いまは、これには触れないでよ。どうしたいかはっきりしたときは、僕から相談するから」

「いつまで独りでいるつもりなんだ。お前が結婚してくれないと、私たちは安心して死ぬこともできないよ」
「本音を言うとね、私、お母さんたちのことを見てると、結婚するのが怖くなるんだ。争ってばかりいて、私、つらかったんだよ...。いまは、この怖さをなんとかしたいと思っているから、結婚よりも、まず自分を立て直したいんだ。協力してよ」

「お前がしっかりしてくれなきや、誰が私たちの老後をみるんだよ」
「親の老後の面倒まで"みろ"って言われると、すごく負担が大きくて、叫びたくなってしまうよ。僕はいま、自分のことですら、どうすればいいかわからない状態なんだ。しっかりしろ、しっかりしろって言うけど...、僕からしたら、お父さんやお母さんのことを責めたくなってるんだからね」   

どうでしょうか。読んでみて、どんな気持ちになりますか。

このように、相手と張り合って言い返すより、自分の気持ちのほうに焦点を当てた自己主張の仕方を「自分中心心理学」では、「自分表現」と呼んでいます。一般的に認識されている 自己主張と自分表現の違い が、ここにあります。

人によっては、こんな気恥ずかしい言乗は使いたくないと思うかもしれません。

「こんな言葉を使わなければならない」と言っているわけではありません。まずは、こんな言い方が、気持ちいいかどうか。あなたの心がラクになるかどうか。身体の緊策がゆるむかどうか。

「言い方によって、こんなにも違う!」それがわかるだけでも、いいのです。

 

心が通い合う会話は、満足感をもたらす

相手と戦って勝つための「自己主張」と、自分のための「自分表現」とは、対極を成すものです。相手との会話であっても、自分を基準にするなら「自分のための自分表現」です。

例えば、「私は海に行きたい。恋人は山に行きたい」という場面です。これをお互いに「自分表現」していくと、どうなるでしょうか。

「えっ? "自分表現"って、私のためにするんですよね」

「だったら、私が海に行きたいと自己主張するとしたら、それは私のためですよね。でも、私が海に行きたいと主張し、恋人が山に行きたいと主張すると、お互いの意見が違うから、自分のために主張すると、争いになるじゃあないですか。

結局、"自分のため"は、"相手のため"にはならないから、争いを避けるためには、自分を抑えて我慢するしかない、ということじゃないですか」

といった主張をしたくなるとしたら、あなたは、「お互いの心が通い合う会話」の経験が乏しい人かもしれません。

確かに従来の自己主張では、海にするか山にするか、この2つは、相反するものです。だから、何がなんでも自分の望みを叶えようとしたら、勝ち負けを争うことになります。

ではここで、あなたが恋人を言い負かして「海に行く」をゲットしたとします。恋人が、「わかったよ。君の言う通りだ。君のほうが正しいから、僕は君に従うよ」と、心から言ってくれれば、あなたは満足するでしょう。

でも実際には、どうでしょうか。あなたは、心から、「海に行く」ことを喜ぶことができるでしょうか。

もしあなたが海に行く準備をしているとき、恋人があまり協力的でなかったとしたら、どう思いますか。「きっと、海に行きたくないからだ」 と勘ぐったりはしないでしょうか。

私たちは、どんなに感情を無視しても、感情を抑えていても、感情に鈍感であっても、感情で動いています。

あなたがそう考えた時点で、あなたの感情に火が点りました。あなたの心の中で、恋人への不満がくすぶりはじめます。

果たして、旅行の途中で、恋人がつまらなそうな顔をしていると、「せっかく、一緒に旅行しているのに、そんな不機嫌そうな顔をして」と、恋人を心の中で責めて、あなたも不機嫌になるかもしれません。

こんなふうに、あなたは「海に行く」という勝利を手にしたとしても、旅行するというプロセスでは、不満を味わうことになります。

争った結果については、仮に勝利を得たとしても、多かれ少なかれ、こんなマイナス感情がどちらにも、つきまとうものです。  では、自分の感情を基準にした「自分表現」では、どうなっていくでしょうか。

「私は海に行きたいんだけど、あなたは山がいいのかあ」
 恋人が答えます。
「うん、海はこの前、友達と行ったからなあ。まあ、君と一緒だったら、海でもいいよ」
「ほんと! いいの? うれしいなあ。でも、ちょっと気が引けるなあ」
「そうだなあ。せっかく旅行するんだから、海も山も、両方がいいねえ」
「じゃぁ、2泊旅行にしない?」
「ああ、それはいいね。この際だから、思い切って、そうしようよ」

こんな調子で、弾む会話の時間そのものが、2人の愛情を感じ合う時間となっていくでしょう。こんな例題を出すと、結果を重視する人は、

「旅行だから、2泊3日なんて、都合のいい話になっていくんですよ。職場なんかでは問題がたくさんあって、即断、即決、結果が第一ですから、そんな呑気な会話なんて、してられませんよ」

などと反論したくなるかもしれません。たしかに仕事場では、例にあるような話をするには時問が足りない場合もあるでしょう。しかし一方で、話し合いをする時間がある場合も決して少なくないはずです。

自分の感情を無視していると、「心の通い合う会話の経験が乏しい」ために、すぐに「そんな会話はできない」と考えてしまいがちです。

また、常々そのように考えているとしたら、争おうとする癖がついてはいないでしょうか。このような癖は仕事の妨げになるのはもちろんですが、それだけではありません。言動の癖というものは次第に他の場面、例でいえば仕事場以外の、家庭や友人関係でも現れるようになってしまいます。 

争う会話で、打ち勝つ一時の満足感を得ることはあるかもしれません。しかし、それは相手の不満足感との引き換えです。そのような会話を続けていけば、次第に関係はうまくいかなくなるでしょう。

関係がうまくいかなくなったとき、争う癖がついている人は、そこでまた争ってしまいます。この争いに勝ったとしても負けたとしても、関係が悪化するのは明白です。

争う癖がついている人は、争い続けるか、あるいは、嫌われることを恐れて自己主張をできなくなっていってしまうのです。

私たちは本来、会話をすることによって「満足感」や「充実感」を感じるようになっていますし、その感覚を強く求めてもいます。しかし、この“会話での満足感”は、争う会話では決して得られないものなのです。

石原加受子

(いしはら・かずこ) 

心理カウンセラー

「自分中心心理学」を提唱する心理相談研究所オールイズワン代表。日本カウンセリング学会会員、日本学校メンタルヘルス学会会員、日本ヒーリングリラクセーション協会元理事、厚生労働省認定「健康・生きがいづくり」アドバイザー。「思考・感情・五感・イメージ・呼吸・声」などをトータルにとらえた独自の心理学で、性格改善、対人関係、親子関係などのセミナー、グループ・ワーク、カウンセリングを25年近く続け、多くの悩める老若男女にアドバイスを行っている。

著書に、『「やっぱり怖くて動けない」がなくなる本』『「しつこい怒り」が消えてなくなる本』(以上、すばる舎)『もっと自分中心でうまくいく』(光文社知恵の森文庫)『もっと、あなたが話したくなる話し方』(PHP研究所)『「どうして私ばっかり」と思ったとき読む本』(PHP文庫)ほか多数。
【オールイズワン】〒167-0032 東京都杉並区天沼3-1-11 ハイシティー荻窪1F http://www.allisone-jp.com/

 

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