あなたの職場の「できる人」を思い浮かべてください――。実は、彼らは皆"よいウソ"をつく力に長けた、ウソの達人なのです。よいウソをつくことができるからこそ成功したとも言えます。
こう語るのは、目白大学名誉教授として心理学を教えてきた渋谷昌三氏。渋谷氏が分類した"できる人がつくウソ"の秘密に迫ります。
※本稿は、渋谷昌三著『この人の言っていることは本当か?』(PHP研究所)より、内容を一部を抜粋・編集したものです。
人間関係を潤滑にする「方便」としてのウソ
まずは、いわゆる「方便」としてのウソのことです。かつて私が行った調査では、次のような事例がありました。
・「子どもを持つ入院患者さんと話をするために、『自分にも子どもがいる』とウソをつき、親しくなれた」という看護師さん。
・「上司から書類の作り直しを命じられたが、事情があり、『得意先が直した』とウソをついて自分で直してしまった。書類は問題なく受けとられ、仕事がはかどった」という課長さん。
・「友人にボーナスの額を聞かれ、実際よりも低い額を教えた」という男性。
いずれの事例でも、ウソを上手に使い、トラブルの芽をつむことができています。ウソとは言っても、相手を傷つけるものではありません。それどころか、逆によい結果を生み出しています。
もしウソをつかず、真実を伝えていたら、どうなっていたでしょうか? たとえば、友人よりもボーナスの額が多いことを伝えたとして、何かメリットがあったのか。きっと、相手の機嫌を損ねるのがオチです。いずれの事例においても、人間関係はずいぶんとギクシャクしたはずです。
まさに、ウソが人間関係をスムーズにする潤滑油になった事例と言えるでしょう。こうした事例は、私たちの日常の中にいくらでも見つけることができます。
人間関係においては、「事実を伝える」「本心を伝える」ことがよいとは限らないのです。場合によっては、人を思いやる気持ちからウソをつくこともあります。
このように、私たちは状況に応じて、的確にウソと本当を使い分け、人間関係をよりスムーズに、より豊かなものにしているのです。
逆に言えば、それができない人は、よい人間関係をつくることができません。職場では信頼されず、恋人には嫌われる。友人にも恵まれないでしょう。「真実しか言わない」「いつも本音」では、人を傷つけてばかりです。
初対面時に自分をよく見せる「小さなスキ」
初対面時に好意を持たれるためのコツとして、あえて「スキ」を見せるといったものがあります。
初対面というのは、誰でも緊張するものです。悪い印象を与えないようにと、姿勢をただし、言葉はていねいに、服装もビシっときれいにしようとします。
しかし、あまりしっかりしすぎるのも逆効果。冷たく、どこか近寄りがたい印象を与える危険があるからです。
どこかひとつ、だらしないところがあったほうが、好印象を持たれることを覚えておきましょう。ポイントは「親近感」です。
ある立派な紳士を観察した実験があります。女性とコーヒーを飲んでいる最中、途中でコーヒーをこぼしてもらったのです。
すると、こぼした後のほうが、女性が紳士に感じる好意が強くなりました。立派であるあまり近寄りがたい印象があった紳士が、人間らしいミスをおかしたことで、心理的な距離が縮まったのです。
このように、小さなスキを見せると「親しみやすい」という印象を与えることができるのです。