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- 育児をする男性の物語には「母親がいない」? 三宅香帆さんが少女漫画にみる夫婦像
忙しい現代に、仕事と家庭をどう両立し、パートナーとどう向き合えばいいのか。
文芸評論家・三宅香帆さんの著書『「夫婦」不在社会』は、昭和から令和までの小説、漫画、ドラマ、映画などを読み解きながら、物語のなかの夫婦や、現代のパートナーシップをめぐる問題を考える一冊です。
本書の冒頭に置かれているのは、安野モヨコさんの『後ハッピーマニア』の一節です。インタビュー中編では、少女漫画が文学に与えた影響や、育児を担う男性の描かれ方、について聞きました。
少女漫画は「女性の一人称文学」
――三宅さんは過去のインタビューで、『ママレード・ボーイ』や『カードキャプターさくら』から、多様な家族観を学んだとお話しされていました。少女漫画では、文芸作品とは異なる形で、家族やパートナーが描かれてきたのでしょうか。
【三宅】少女漫画が文学に与えた影響は、とても大きいと思っています。
著書『娘が母を殺すには?』で母娘関係をたどったときに感じたのが、少女漫画で描かれていたテーマが、ある種「輸入」されるような形で、やがて文学でも扱われるようになっていった、ということです。夫婦関係もまた、少女漫画が長く追いかけてきたテーマの一つなのではないかと思いますね。
――少女漫画のほうが、多様な関係性を描きやすかったということでしょうか。
【三宅】そうですね。少女漫画には、女性による一人称文学のような側面が強くあると思っています。特に、若い女性が若い女性に向けて描くというジャンル自体、世界的に見ても珍しいものではないでしょうか。そうした意味でも、女性の視点から、さまざまな関係性を多様な形で描きやすかったのではないかと思います。
「育児を担う男性」の物語には母親が不在になっている
――『「夫婦」不在社会』では、ドラマ『海のはじまり』が取り上げられていました。同作は、目黒蓮さん演じる主人公が子育てに向き合う物語ですが、男性が育児に奮闘する作品は、少女漫画でもたびたび描かれてきたように思います。例えば、三宅さんが幼少期に読んでいたという『愛してるぜベイベ★★』も、その一つですよね。こうした作品には、「イケメンが育児をする姿を見たい」という女性読者の願望も反映されているのかなと感じました。
【三宅】ひうらさとるさんの『西園寺さんは家事をしない』や羅川真里茂さんの『赤ちゃんと僕』など、育児に振り回される少年や青年を描いた作品は、定期的に登場しますよね。
ただ、そこで難しいと感じるのは、そうした作品の多くで母親が不在であることです。母親が亡くなっていたり、何らかの事情で姿を消していたりする。『愛してるぜベイベ★★』も、母親がいなくなるところから物語が始まります。
つまり、男性がパートナーとともに育児を担うのではなく、母親が不在になって初めて、「育児に振り回されるイケメン」が登場する。その構図は、『SPY×FAMILY』にも見られると思います。
そこには女性読者の願望が反映されている一方で、夫婦がともに育児をする物語にはなりにくい。それが、私としては少し切ないな、と。もちろん、時代とともに描かれ方は変化していると思いますが、このテーマは、まさに『「夫婦」不在社会』で描きたかったことの一つです。
『後ハッピーマニア』から学べること
――本書の冒頭では、『後ハッピーマニア』の一節が引用されています。三宅さんは、好きな漫画として同作をたびたび挙げていますが、どのような点に魅力を感じていますか。
【三宅】安野モヨコさんの人物描写は、本当にすごいと思っています。「こういう人、いるよな」と感じたり、身近な友人の話を聞いているような感覚で読めたりする。そこが大きな魅力の一つですね。ぜひ『「夫婦」不在社会』とあわせて読んでほしいと思っています。
――『後ハッピー・マニア』を改めて読み返すと、夫婦について考える上で大切なことを学べるように感じました。
【三宅】私が『後ハッピーマニア』を読んでいて感じるのは、パートナーシップを続けることだけが正義ではない、ということなんですよね。作中で登場人物たちが別れを選ぶことも、私は決してアンハッピーエンドではなく、むしろハッピーエンドなのだと思いながら読みました。
『「夫婦」不在社会』では、主にパートナーシップを続けることについて書いたため、十分には触れられなかったのですが、関係を解消することも含めて、一つの選択肢なのだと思います。