「健康のために歩くのは良いことだけど、大変そう...」そんな風に思っていませんか? 医師の長尾和宏さんは「たった1分、自分が気持ちいいペースで歩くだけでいい」と語ります。今日から、無理なく始められる歩行習慣について書籍『歩く人はボケない 町医者30年の結論』よりご紹介します。
※本稿は長尾和宏著『歩く人はボケない 町医者30年の結論』(PHP新書)より一部抜粋・編集したものです。
歩行は、全身の筋肉トレーニングになる
歩くことは足だけの運動のように思うかもしれませんが、ひねりが入った全身運動そのものです。全身の筋肉を使いながら体を左右にひねらないと前に進めません。無意識のうちに体を左右にひねり、それに伴って、左右の腕も交互に前後に動かしているはずです。
少し速く歩こうと思えば、左右の腕を勢いよく前後に動かし、体をしっかりひねらないと速く前に進めません。ロボットのように体を正対したまま、足だけ前に出してもうまく進めません。歩行には左右の腕の動きと骨盤のひねりを必ず伴います。足腰だけでなく、全身運動であることを意識してください。実は、頭を支えるために首の周囲の筋肉も使います。歩くことは、全身の筋肉のトレーニングになるのです。
歩行は、習慣化が大切
歩くことが習慣化されていない人は、雨が降っただけで、「雨に濡れるのが嫌だから、外出はやめよう」と思い、歩かなくなります。
一方、歩くことが習慣化されている人は、「傘を差して出かけよう」「アーケードの中を歩こう」などと考えて、雨が降っても外出します。歩く習慣ができてしまえば、どんなときでも工夫して歩くようになります。歩く習慣がある人とない人では、結果的に歩く距離も、歩く時間も、そして人生もまったく違ってくるのです。
道はずっと平坦とは限らず、坂道や階段に行き当たることもあります。もしも階段に出合ったら、絶好の筋トレの機会と受け止めて、階段を上り下りするといいでしょう。
筋肉は鍛えなければ増えることはありません。ハードな筋トレをする必要はありませんが、特に中高年は筋肉を意図的に動かさないと衰えます。筋肉量が減ることが老化そのものであり、フレイルにもつながります。しかし筋肉を動かせば、筋肉量を維持できます。もしもそこに階段があれば、絶好の筋トレの機会だと思いましょう。
駅やビルでは、エスカレーターやエレベーターを使う人が多いですが、もし余裕があれば階段を使いましょう。外出するときは少し早めに出ると、余裕を持って駅で乗り換える際には階段を歩く時間ができます。
急いで上り下りする必要はなく、人のあまり通らないスペースを使って、自分のペースでゆっくり上り下りすればよいのです。適度な負荷は筋肉にプラスです。トレーニングジムのウォーキングマシンは平らなところでも充分効果がありますが、もしも余裕があれば少し傾斜をつけて歩くのもいいでしょう。
日常生活では階段を歩くだけでも立派な筋トレになります。街中でも、駅でも、会社でも、自宅でも、階段のある場所はたくさんあります。世の中、トレーニング場だらけです。東京の地下鉄のホームは「これでもか」というくらい深いところにありますから、階段をうまく利用しながら筋トレするのもいいでしょう。
ただし、雨で床が濡れていたら注意してください。バランスよく足を着かないと、転倒してしまいます。階段を降りるときにコケる人は少なくありません。膝の悪い人はみな「階段を降りるときがつらい」「降りるときが怖い」と言います。降りるときはゆっくりと降りてください。
1日1万歩歩かなくてもいい
「1日1万歩が目標」などとよく言われますが、1万歩歩くためには、1時間や2時間ほどもかかります。
「1時間も時間をとれません。そんな時間はありませんよ」と言う人はよくいます。
私がお勧めしているのは、1日20分です。20分というのは、「数字で目安を示してほしい」と言われるので、目安として示しているだけです。20分にこだわる必要はまったくなく、10分でも構いません。「スキマ時間があればこまめに歩く」という習慣があれば、何分でも大丈夫です。5分でも、3分でも、1分でもいいんです。
「1分でもいいですよ」と言うと、今度は「そんなに短い時間でいいんですか?」と必ず聞き返されます。1分という時間は、短いように思われていますが、けっこう長いです。
1分あればかなりのことができます。2024年のパリオリンピックの男子競泳自由形100メートル決勝で、金メダリストのタイムは、46秒40でした。
試しに1分間歩いてみるとわかります。1分間の歩行でも、かなりの距離を進めます。だいたい80メートルくらい歩けると言われています。ですから、1分は決して短い時間ではありません。それが積み重なれば、かなりの歩行距離になるはずです。
自分が気持ちいいと思うスピードで歩けばいい
早歩きを勧められることがありますが、歩くスピードはあまり気にする必要はありません。自分が気持ちいいと思う速度で歩けばいいだけです。
気持ちいいと思うスピードで歩こうとすると、自然にある程度のスピードになっているはずです。なぜかと言うと、人間にとって遅く歩くことはけっこう難しいからです。
もしも「100メートルを20分かけて歩いてください」と言われたら、かなりつらいでしょう。1分半くらいで歩ける距離を20分もかけて歩くのはむしろ苦痛です。
歩くスピードは気にせず、心地よいスピードで、楽しく歩きましょう。
慢性心不全や狭心症など心臓に持病がある人は、早歩きで心拍数が上がると危険です。心拍数が140を超えると不整脈や狭心症の可能性が高まります。心拍数は110以下に保つくらいのつもりで歩いてください。
ただし、いちいち心拍数を測りながら歩く必要はありません。一つの目安として、鼻歌が歌える程度、あるいは、隣の人と会話ができる程度であれば、心拍数は110を超えていないはずです。
心地よいと思えるスピードで、無理のない程度に歩いてみてください。疲れてきたら、ペースを落とすか、休みを入れましょう。つらくなったら、やめてください。