人気Podcast番組『学校では教えてくれない"見えない力"の授業~「大人の非認知能力」~』でパーソナリティをつとめる、株式会社OnLine代表の白石慶次さん。同番組に、教育改革やソーシャル・イノベーションに長年取り組み、東京大学や慶應義塾大学で教鞭をとり「すずかん先生」の愛称で知られる鈴木寛教授がゲスト出演しました。テーマは「AI時代、大人は何を学ぶべきか?『大人の教育改革』」です。
収録にあわせてお時間をいただき、お二人に追加でお話を伺いました。海外から評価される一方で、自信を失っているように見える日本人。その背景にある減点主義と、いま大人が学び直すべきことについて語っていただきました。
※全3回の1回目です
日本人は悪いニュースに慣れてしまい、良い情報に気づけない?
――収録で印象的だったのが、日本はGDPが落ちていてどことなく暗い空気感が流れているけれど、GDW(Gross Domestic Well-being)など違う視点で見ると日本はすごい、というお話でした。日本人はもっと自信を持っていいと思いました。他に、日本の誇れることや、自信が持てる日本人の資質があれば鈴木先生に伺いたいです。
【鈴木】今、海外からのインバウンドがものすごく増えていますよね。それは、日本という国を海外の人がものすごくリスペクトしてくれている、あるいは憧れてくれているからだと思うんです。
最近は海外で、抹茶が人気になっていますよね。あんな苦いものが、と思うけれども、ヨーロッパの人には、抹茶のお菓子を持っていくのが一番喜ばれる。お寿司ブームに次いで抹茶ブームが来ていて、それがブームに終わることなく、ちゃんと根付いている。だから結局、
――国民性なのでしょうか。
【鈴木】外から見ていると、いいものはいっぱいあるし、日本の伝統や文化もある。さらに、
イギリス人の友人が、日本に3、4年住んで、英国に帰任したんです。「日本でどう思った?」と聞いたら、「Everything works」と言うんです。全てのことがちゃんと機能していると。僕らからしたら当たり前じゃないですか。電気はつく、水は出る。地下鉄はちゃんと動いているわ、役所だってちゃんとしているし。
【白石】どこもちゃんと機能していますね。ストライキで交通網が止まることもない。
【鈴木】イギリスという文明国ですら、常にワークしないものがあるわけです。この前イギリスに1週間出張したんですが、列車での移動が多かったんです。時刻通りに来た列車は1本もありませんでした。
そういう意味で、日本は本当に素晴らしい国なのに、現在の評価軸の中で自信を失っている。たまたまGDPが上がらなかったというところで。
――2025年のPISAで、日本の15歳が数学・科学・読解力の3分野すべてでOECD加盟国中1位になりました。しかし、このニュースはあまり広く知られていない印象があります。
【鈴木】文部科学省はちゃんと発表しているんですよ。でも日本は、いいニュースはメディアであまり広がらないんですよね。
だけど、これは別にメディアだけが悪いわけではなく、日本人には「悪いニュースを聞くのが好き」
【白石】安心するんですかね。自分より不幸な人たちを見たりすると…。
【鈴木】ちょっと歪んだところがありますよね。前向きな影響を与えるのは、スポーツニュースだけなんです。
【白石】良いニュースで一致団結できるのは、本当にスポーツだけかもしれません。
【鈴木】メディアも悪いニュースを放送すると視聴率が取れるから、結局悪循環になっているんです。悪いニュースばかり見ていると、悪いニュースに慣れる。結局みんなのやる気が削がれていくという、負のスパイラルになっている。これを教育やメディアの力で、どうポジティブスパイラルに変えていくかなんです。
減点主義の入試制度がもたらした影響
【鈴木】僕は、入試制度が負のスパイラルに加担していると思うんです。大学入試センター試験は、選択肢の重箱の隅をつついて間違いを見つけて、消去法で解くのが必勝法なんですよ。
日本人は大学入試センター試験の受験勉強の影響もあって、小さなミスに気づくんです。しかも消去法で見つけていくんです。
【白石】これがいい、じゃなくて、これはダメだ、と。
【鈴木】「ダメだ、ダメだ」の減点主義です。大学入試センター試験は1000点取れる試験になっていて、そこから何点減点したかという減点ゲームだったんです。小学校の時から18歳まで、減点ゲームを徹底的に磨いてきているんですよね。
【白石】教育されてしまっているんですね。
【鈴木】だから私は、入試を変えないといけないと思ったんです。総合型選抜の探究型入試をもっと取り入れていったら、日本人は変わりますよ。重要な部分に目が行くようになる。探究とはそういうことですから。本質とは何かを探究していくということなんです。
教育の力は大きいと思っていて、日本の国民性を変えることができると私は信じてやっています。
減点主義から探究型に変わるためには
【白石】鈴木先生は、教育現場の先生たちを教えるために全国を回ってらっしゃいますよね。その先生たちに育てられた"Z世代"と言われる若者たちが社会に出始めている。ただ、上に立つ人間たちはまだOSが古いままの、減点主義だと思います。これは今後どうしていったらいいんでしょうか。
【鈴木】大人がアンラーンすることでしょうね。
大人が減点主義から卒業して、大人こそ卒近代※。子どもはもう卒近代しているので、このままでは置いていかれる。
どうしても人間は、自分が言われてきたことを人に言ってしまうんです。自分たちは、ミスを少なくと言われながらで育ってきているから、それを無意識に次の世代に言ってしまう。そこをメタ認知して、自分は今まで言われてきたことをそのまま下の世代に垂れ流しているなと認識して、これを意図的に止めなきゃいけないんです。
【白石】たとえば昔の部活の悪い風習を、俺たちの代で止めるぞ、みたいなことをやっていかないといけないんですね。
【鈴木】「最近の若い奴は」というのは人間の口癖なんですよね。エジプトのピラミッドにもそう書いてあったというくらいで。ただ、この世代間ギャップは、今の時代は特にすごいことになっていると思います。
【白石】本当にそうだと思います。「理解ができない」という声はやっぱり聞きますし、それはそうだろうなと思います。アンラーンですね。
※卒近代:鈴木寛さんの造語。産業革命以来の「工業社会」の価値観や教育のあり方を卒業し、次の時代に移るという考え方。
違和感は探究の入り口
――我々大人が世代間の差を感じられたら、ちょっとした違和感をおぼえると思うんです。いきなり大きな行動は難しいと思うんですが、その違和感を次のステップにつなげるには、何から始めればいいでしょうか。
【鈴木】起こっていることは、何らかの真実なんですよね。現象はすでに起こっている。若者の振る舞いがそうです。自分の価値観からすると違和感を抱くんだけど、違和感は探究の入り口なんです。なぜ違うんだろうと、押し付けるのではなく探究してみる。なぜ自分とその若者は価値観が違うのか、行動原理が違うのかを、徹底的に探究する。
探究するにはどうしたらいいかというと、まず聞くこと。「なんでこうするの?」「なんでこうしたの?」「なんでこれがいいの?」と。若者なりの価値観に基づくいろいろな判断を、まずちゃんと理解しなきゃいけないんです。その後ろ側にある行動原理やフィロソフィーまで立ち返る。そうすると、そのフィロソフィーが自分と全然違うということに気がつきますよ。
例えば、今は給料のいい会社なんか選ばれないんです。僕らの世代は、給料がいいということが、会社を選ぶ最重要事項でした。若者が会社を選ぶ基準は、ウェルビーイングなんです。ウェルビーイングでなければ、いかに給料が良くても選ばれません。でも大人側は、会社は稼ぎに来るところなんだから給料が全てだろうと思っている。だから、思い込みをちゃんと見直す。異なるものと遭遇することには必ず新発見があります。
――白石さんの非認知能力のお話の中でも、不快感に触れることが挙げられていました。それに気づくための方法を改めて伺いたいです。
【白石】僕は、自分の正解、正しさをちゃんと疑う力が必要だと思うんです。メタ認知ともいえるのですが、自分が正しい、当たり前だと思っていることが本当に正しいのか、間違っていることもあるよね、と。例えば怠けているように見える若い子を見て、「
自分の感じ方を否定するのは不都合で不快なんですけども、そこときちんと向き合って、自分が正しいと思っていることが正しいわけじゃない、と受け入れていく姿勢が必要なんです。
――先ほど鈴木先生がお話されていたように、「今時の若者は」の一言で片付けずに、「なぜ」と探究していくことが大事なんですね。
【白石】そのためには、自分の正しさをちゃんと疑える姿勢が必要かなと思いますね。姿勢と、受け入れる力、受容する力ですよね。