《『[図解]話のおもしろい人、へたな人の心理法則』より》
なぜ気持ちが伝わらないのか
自分の気持ちが相手にきちんと伝わると、誰だってうれしい。
自分の思いを受け止めてくれ、理解してくれ、共感してくれるからだ。
しかし、相手にきちんと伝わらないことも多い。
そうしたとき、人は不満に思い、理解されないことに腹を立ててしまう。
「どうしてわかってくれないの?」
「なぜ話が通じないんだ!」
思いがうまく伝わらず、自分をまるごと理解してくれないとき、人は相手の理解不足のせいにして、相手を責めることもある。
だが、たいていの場合は、あなたの話し方に問題がある。
独り善がりな伝え方をしたところで、誰もあなたの話など理解できないのだ。
たとえば、同じことを説明するにしても、大人と子どもに対してでは話し方が大きく変わる。子どもの理解の仕方に合わせた説明方法が必要になるからだ。
相手が男性か女性かによっても、使う言葉が違ってくる。男性はすぐに結論を急ごうとするので論理的で簡潔な言葉のほうが理解されやすいが、女性は結論に至るまでのプロセスを重視するので、感情面に配慮した言葉を選ばないと理解されない。
会話というものは、相手が存在してこそ成立するもの。だからこそ、相手がどう受け止めるか、どう理解するのか、その点から出発する必要がある。
コンピュータのようにケーブルでつながっているわけでもないのだから、あなたの話が正確にすべて伝わることなど、まずありえない。
“伝わる”のは“あなたの話”ではない。
“伝わる”のは、“相手なりの理解”だけである。
話し方ひとつで心は動く
ここで具体的な例をあげよう。次のセリフを見比べてみてほしい。
「甘いものばかり食べていると太るよ」
「甘いものを減らせば痩せられるよ」
内容はまったく同じことなのに、言い方ひとつでずいぶんと印象が違っていることがわかるだろう。
もちろん、後者のセリフのほうが喜ばれるし、痩せようとする気持ちも勇気づけられるというものだ。
ちょっとした言い方の違いで、ここまで受け取り方が変わるのだ。
あるいは、次のようなセリフはどう思うだろうか。
「お前って、あきらめが悪いなあ……」
「失敗しても、なかなかくじけない人なんだね」
これも、前者のように言われるとカチンと頭にくるだけだが、後者のように言われると、認められた気がしてなんだかうれしくなってしまう。
同じ内容でも、言い方を変えるだけで正反対の結果を招くことになる。
このように、話し方ひとつで、相手の感情は大きく変わってきてしまう。
それはつまり、言い方ひとつを変えるだけで、一瞬で人の心を動かすことができるということにほかならない。
会話を支配するのは心理学
話し上手な人は、話の内容がおもしろいし、みんなの印象に残りやすい。
そして、時間があっというまに過ぎるほど、会話をしていて楽しく思える。
だからこそ、誰もが自分もそうなりたいと願い、憧れる。
きっと彼らには、生まれもった才能があるんだ。自分にはあそこまで人を楽しませることはできない。あんなにおもしろくはなれない--こう考える人も多いだろう。
はたして、そうだろうか。
話し上手な人、会話上手な人というのは、生まれつきなのだろうか。
否、である。彼らは、生まれつき会話上手なわけではない。
もしかしたら、生まれつき「人の気持ちがわかる」ことに長けているかもしれないが、彼らなりに試行錯誤を重ねて、人が喜ぶ会話術を身につけてきたに違いない。
なぜなら、会話は相手があってこそ成立するもの。経験を積み重ねないことには、人を引きつける話し方など体得できはしないからだ。
話し上手な人とか、話がおもしろい人たちだって、いくつもの失敗や挫折をくり返して、やっと身につけた彼らの会話術なのだ。
したがって、つまらない話しかできないと思っている人でも、話が続かないと悩んでいる人でも、いくらでも会話上手な人、会話の達人を目指すことができる。
そのために必要なのが、ほかでもない心理学なのである。
何度もいうが、会話は相手があってこそ成立するもの。相手の気持ちがわからないことには、話がきちんと伝わらないし、心を動かすこともできない。そして、相手が喜ぶ楽しい話を提供できない。
つまり、相手の心理がわかってこそ、はじめて楽しい会話が成り立つのである。
相手の気持ちを推し量ることのない会話は独り善がりなモノローグにすぎない。
心と心がつながったダイアローグによって、はじめて会話は楽しくなり、人間関係が生き生きとしたものになってくるのである。
<書籍紹介>
話し方や口癖は人の心理に影響を与え、好かれたり、嫌われたりする。心をとらえ、人を動かす話し方を心理学的アプローチで説く。
<著者紹介>
内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者、立正大学特任講師、〔有〕アンギルド代表取締役
社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ。その軽妙な心理分析には定評がある。
主な著書に『どんな逆境にもクヨクヨしない心理術』『一瞬で人の心を虜にする暗示心理術』『心理戦で必ず勝てる人たらし魔術』『人をその気にさせる悪魔の心理会話』『一瞬で人を操る心理法則』(以上、PHP研究所)など多数。