1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 脳番地で脳力強化(1)いくつになっても「地頭」は鍛えられる

仕事

脳番地で脳力強化(1)いくつになっても「地頭」は鍛えられる

加藤俊徳(脳内科医/医学博士)

2014年07月10日 公開 2023年01月12日 更新

ビジネスマンに最も不足している脳力とは?

 ちなみに、日本人のビジネスマンが最も鍛えるべきは、「視覚系脳番地」だと私は思っています。名経営者は現場をちょっと見ただけで問題点を発見できると言いますが、これはまさに「視覚系脳番地」が強い証拠。ただ、多くの人はこれが不足しているため、現場を見ても問題点やビジネスチャンスを見逃してしまうのです。「視覚系脳番地」を鍛えるためにお勧めなのは、たとえば駅のホームや商店街などの人ごみを歩くとき、進行方向にある隙間を探し、素早く先に進めるルートを頭のなかで描いてみること。視覚系脳番地を刺激するよいトレーニングになります。

 ただし、いくら苦手な分野があるといっても、単独の脳番地だけ鍛えてもあまり意味がありません。なぜなら、脳番地は互いにつながろうとする傾向があるからです。たとえば、相手の話を聞きながら何かを考えているときには、聴覚系脳番地と思考系脳番地が連携している状態です。この連携をうまく活用すれば、脳番地を複合的に鍛えることができます。また、脳番地の連携が進めば、脳細胞同士のつながりも強くなるため、脳全体の機能強化にもなります。

 また、ある行動が苦手だったとしても、それに関わる機能を担う脳番地のすべてが弱いということでもありません。たとえば、人と話すのが苦手だという場合、「相手の言うことがよく理解できない(理解系脳番地)」のか、あるいは「言いたいことはあるのにうまく伝えられない(伝達系脳番地)」のか、関わる脳番地は複数あります。必要な機能を細かく分解することで、自分はどの部分が苦手なのかがわかるはずです。苦手な部分が把握できたら、その部分を重点的に鍛えればいいでしょう。

 ちなみに日本人はもともと、「複合的に脳を使う」ことが得意だったはずです。たとえば、日本人の特性である「感謝」「思いやり」「礼節」は、複数の脳番地同士の連携が必要とされます。本来、それらをスムーズにこなせる人こそが「地頭のいい人」だと思うのですが、日本では単に記憶力とか、レスポンスの速さばかりが頭のよさのバロメーターだと思われているように感じられてなりません。

 

仕事を速くこなすことが脳の退化につながる!?

 ただ、地頭のよさとして、「記憶力」が重要なファクターであることは事実です。そこで「記憶系」の脳力を高めるためのコツも1つ紹介しましょう。それは「時間を意識する」こと。ただ漫然と「これを記憶しよう」と思うのではなく、「明日までに」などと締め切りの時間を決め、それに問に合わせるよう意識することが、記憶力の強化につながるのです。

 定年を迎えて会社に毎日通勤しなくなった人は、急速に記憶力が衰えていくとよく言われます。それは、会社に行かなくてよくなったことで、「時間を意識しなくなる」ことが大きな要因なのです。逆に言えば、リタイアした後も毎日の予定をしっかり立て、時間を意識して日々を過ごすことは、ボケ防止に大いに役立ちます。

 ただし「時間を意識する」といっても、ただ仕事が速ければいいわけではないことにも留意してください。むしろ、「仕事が速い」人ほど、脳が退化する恐れもあるのです。というのも、「仕事が速い」ということは、ある仕事に習熟しているということ、すなわち「頭を使わなくてもできる状態」です。こうした仕事ばかりでは、脳には刺激が与えられないのです。

 毎日同じようにこなすルーチンワークこそ、ときには順序や手法を変えてみたりすべきなのです。単に迅速に処理しようとせず、あえて丁寧に取り組むことで、脳のあらゆる部分を使うことを意識してみましょう。

 30代から40代は、脳が自分らしく個性化していく時期です。その一方で、仕事に慣れ、徐々に新鮮味がなくなってくる時期でもあります。この大事な時期に、いかにいろいろな経験を積み、脳を鍛えられるかが、その後の人生を決めます。

 実際、50歳を過ぎると、それまでのその人の生き方や人生観が強烈に脳に反映されるようになり、脳の個人差が大きくなっていきます。脳は何歳からでも鍛えられますが、できれば早いほうがいい。とくに30代や40代のうちは積極的にチャレンジすべきです。

 

加藤俊徳(かとう・としのり)医師・医学博士、「脳の学校」代表

1961年、新潟県生まれ。加藤プラチナクリニック院長。14歳のときに。「脳を鍛える方法」を探そうと、医学部への進学を決意する。昭和大学医学部、同大大学院を卒業後、1991年、国立精神・神経センターにて脳機能を光計測するNIRS原理を発見。1995年より、アメリカ・ミネソタ大学放射線科MR研究センターに研究員として在籍。臨床珍療の経験を生かし、胎児から100歳を超えるお年寄りまで1万人以上の脳画像を分析してきた。帰国後慶應義塾大学、東京大学などで脳の研究に従事しながら、MRI脳画像珍断のスペシャリストとして活躍。2006年、(株)「脳の学校」を立ち上げ、脳酸素を計測するCOEやMRI技術を使って脳の「個性」の鑑定を行なっている。著書に『脳の強化書』(あさ出版)など。


<掲載誌紹介>

2014年7月号

「知っているか、知らないか」ではなく、「考えられるか、考えられないか」。答えが用意されていないビジネスの世界で求められるのは、自ら問いを立てて、アイデアを考えたり、判断することです。そして、そのベースになるのが“地頭の良さ”です。
今月号では、どうすれば地頭が鍛えられるのかについて、実績あるプロフェッショナルに教えていただきました。

関連記事

アクセスランキングRanking