SNSに投稿しているコント動画で人気を集めるお笑い芸人のなかむたさん。中でも「どうせ死ぬよ!」には、多くの視聴者から共感の声が届いています。
平穏な日々を望んでいるからこそ、ささいな出来事にひっかかってしまう。連載「絶望型平和主義」では、なかむたさんが生活のなかで考えてしまうこと、人間関係のモヤモヤなど、その頭のなかをエッセイとして綴っていただきます。
第2話は、友人と訪れたチェーンの飲食店で繰り広げられた、なかむたさんの脳内会議の記録です。
*毎月1回更新予定です
*記事内の価格・セット内容はエピソード当時のものです
“忙しい時のチェーンの飲食店で我を出す人”に引っかかる
これは5年ほど前の話、僕は友人とマクドナルドへ昼食を食べに行った。昼時ということもあり店内は慌ただしい。友人より先に僕が注文をする。
「てりやきマックバーガーのセットで、サイドはナゲットで、ソースはマスタードで、飲み物はアイスコーヒーでお願いします、あ、ミルクとシロップは大丈夫です」
僕は死ぬまでに8兆回この台詞を言うと思う。それぐらいこのセットの布陣が好きだ。そして次に友人が注文をした。
「えええ〜ビックマックのセットで、ポテトで飲み物はコーラでお願いします!」
王道にて最強。ビックマックとポテトを炭酸で胃袋に流し込むのもいいよな〜と思ってたのも束の間、友人から放たれた言葉に耳を疑った。
「あっポテトは揚げたてでお願いします!!!」
この人は何を言ってるんだ。冒頭でも言ったが、店内は昼時で慌ただしい。レジは注文の列ができ、注文受け取り口には出来上がった商品とウーバーイーツで頼まれた袋で溢れかえり、店内も満席。
そんな時に揚げたてでお願いします?1人だけのために、揚がりきったポテトを横目に店員さんが新しいポテトをフライヤーに入れている。百歩譲って忙しくなければ全然いいと思うし、店員さんも揚げたてを注文されて満点のスマイルで注文を受けてたので問題ないことだとは思う。
でも僕は"忙しい時のチェーンの飲食店で我を出す人"にどうしても引っかかってしまう。このスマイルはマクドナルドが築き上げたマニュアルだと友人に気づいてほしいので僕は友人にこう言った。
「こんなに忙しいのによく揚げたて頼めるね」
すると友人は
「俺、揚げたてのポテト好っきゃねん!!」
僕の友人は話が通じない揚げたて好きの、やしきたかじんだった。友人に対して色々言いたいことはあったが、せっかくの美味しいご飯の時間を雰囲気悪くしたくないのでグッと我慢した。
席に着くなり友人は揚げたてのポテトを頬張る。そしてその時、信じたくない光景が僕の目に飛び込んでくる。
"スマホを見ながら揚げたてポテト3本食い"
揚げたてに集中しろ。五感を研ぎ澄まして食え。店員さんのスマイルを思い浮かべて味わえ。いや、店員さんにスマイル返却しろ。いや、やっぱ返却するな。もう店員さんの時間を奪うな。
そんなことを思っていたら、てりやきマックバーガーを食べ終わっていた。僕も集中できていなかった。
「このサクサク加減が好っきゃねんな!」
話が通じない揚げたて好きの、やしきたかじんさんお久しぶりです。揚げたてのポテトを食べる友人は凄く上機嫌だ。
その時、僕は思った。この一連の流れで、笑顔じゃないのは僕だけじゃないか。人の趣味嗜好に勝手に入り込み、昼時の忙しい時に揚げたてを頼まれて店員さんもきっと嫌がってるだろうと決めつけ、大好きなてりやきマックバーガーもほぼ無味で完食。
"忙しい時のチェーンの飲食店で我を出す人に引っかかる"と言ったが、僕は"自分が思うルールに反した人を見たら我を出す"なので、こっちの方が悪なんじゃないかなと思った。でも人間なんて自分を正当化したい哀れな生き物だろ!と無理矢理正当化をした気持ちを正当化していた。すると、数年前の記憶が一気に蘇った。
"友人には前科があった"
夕飯時の餃子の王将で、耳を疑った友人の言葉
『スキップとローファー』が好きすぎて、作者のサイン会にも行ったというなかむたさん「登場するキャラクターがいいんです。みんな何かを抱えながら生きているんだなあって」
ある日、その友人と餃子の王将へ行った。19時くらいに行ったのもあって店内が慌ただしい。さすがコスパ最強チェーン店。その日も熱気に満ち溢れてる店内で、中華鍋を振る音と王将独特の用語が飛び交っていた。そんな中、ベルを鳴らし店員さんが来て、僕から先に注文をした。
「炒飯セットをお願いします」
お腹が空きまくってる時はこれ一択。炒飯、唐揚げ二個、餃子一人前、卵スープで1130円。最強。豚辛ラーメンも最強。
そして友人が注文をする。
「餃子定食をご飯大盛りでお願いします!!」
餃子二人前にライス、卵スープ、漬物で990円。これも最強。まず皿に盛られた12個の餃子の絵が美しい、と思ってたのも束の間、その日も友人から放たれた言葉に耳を疑った。
「あ、餃子は両面焼きでお願いします!!」
この人は何を言ってるんだ。餃子なんて片面焼くだけでも十分美味しい。まず両面焼きなんてあるのを初めて知ったし、こんな形で知りたくなかった。両面焼きの情報は一切ないが片面焼きより絶対に時間が掛かる。だって両面焼くんだから。
そして僕は、友人にこう言った。
「そんなに両面焼きで食べたいの?」
すると友人は
「こっちのが好っきゃねん!!」
我を出す度に登場する、やしきたかじん。
店員さんは忙しいのにも関わらず笑顔で注文を受けて、厨房に注文を通す。そのまま本当の思いを王将用語に混ぜ合わせてストレス解消してもいいのにと思った。
「ソーハン・カン、コーテル・テイ
イソガシトキニヤメロ・リョウメンヤキ
デキンスンゼン」
みたいな感じのこと全然言ってもいいのになと思っていたら、両面焼きの餃子を店員さんが笑顔で運んできた。そしてその餃子を友人が食べて笑顔になっている。
そして僕は、モヤモヤした気持ちで炒飯を口に運ぶ。そう、この日も僕だけが笑っていなかった。
そんな苦い思い出がマクドナルドで蘇った。
本当の悪の根源は...
なかむたさんオススメの漫画や書籍を紹介してもらいました。廃墟の写真や説明が詰まった『廃界本』は読み応えあり。『ひとりでしにたい』は終活の勉強にもなったそう。
他人の「我」に引っかかって自分の「我」をぶつける。平穏な日常を望んでいる僕が悪の根源になっているじゃないか。
小さい頃、母親について行った町内会の集まりで見た、地域を良くしたいからといって、人の意見をそれは違うと跳ね除け、誰彼構わず文句を言う腫れ物オバサンを思い出した。絶対にあの人だけにはなりたくない。でも、今の僕は腫れ物の芽が少し顔を見せている気がする。
てかまず、こんな揚げたてや、両面焼きにするぐらいで引っかかる面倒くさい僕なのに、友達でいてくれるんだから感謝しろよ自分。もしそんなこともできないなら、散々揚げて黒くなった油のフライヤーで僕を揚げた後、熱々の中華鍋で引っ張ったいてくれよ。まではさすがに思わなかった。
そんな騒がしい脳内会議している僕の目の前で友人は揚げたてのポテトを次々に口へ運んでいる。平穏な日常を送りたいし、喧嘩なんかしたくない。だとしたら、各々の「我」を擦り合わせる努力が必要だ。
僕は頭の中で考え過ぎてしまう性格だけど、時には目の前に映る情報だけを信じて過ごす日もあっていいんじゃないかと思った。
今日もその日も友人は美味しいものを食べて笑顔だ。それでいいじゃないか。
接客をする店員さんも笑顔だ。それでいいじゃないか。
ティロリティロリティロリ
ポテトが揚がった音が店内に鳴り響く。
今度僕も、揚げたてにできないか聞いてみよう。
店が空いてる時に。