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オバマの嘘・「尖閣を守る」を信じてはいけない

日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)

2014年08月08日 公開 2022年11月02日 更新

 

戦争を始める権限は、アメリカ大統領の持つ最も強い特別権限とされているが、すでに述べたように1973年にできた法律で規制が加えられている。2014年1月にマケイン上院議員らが提出した法案が通れば、この大統領権限はさらに規制されることになる。

オバマ大統領はまず議会の常任委員会の了承を得なければアメリカ軍を動かすことはできない。オバマ大統領1人の判断で尖閣諸島を守る戦争を始めることなど不可能なのである。

オバマ大統領は、正確には「議会の同意が必要であるが」と言うべきであった。すでに述べたようにアメリカ国民の半分以上、ほぼ3分の2がオバマ大統領は嘘をつくと思っている。オバマ大統領は国賓として歓迎を受けたお返しのつもりか、嘘ではないにしろ弁護士的な詭弁を弄して日本人に期待を抱かせたのである。

オバマ大統領が置かれている政治的立場を見ると、戦争を始めるにあたって議会の同意を得ることは非常に難しい。まず不可能といってよい。アメリカ国民はいまや外国のために戦争するのは嫌だと心の底から思っている。

議会を構成する議員たちが、選挙民の意向に逆らってオバマ大統領に賛同するはずがない。2013年に十分な準備をしながらオバマ大統領がシリア攻撃を諦めたのは、議会の賛成を得られないことが判明したからである。

現在、オバマ大統領と議会の関係は最悪である。戦争どころか国内政策を進めることすら難しくなっている。それでなくともアメリカ議会の審議が複雑で時間がかかることはよく知られている。

フィリバスターと呼ばれる議事妨害の手段がある。演説を長々と続けて法案の成立を妨げる議会作戦の1つである。このフィリバスターを阻止するためには、法律を提案した側には5分の3という絶対多数が必要である。基本的には60票の票が集まった場合には、フィリバスターを続ける代わりに議会に提出された法案を破棄してしまうことも可能である。

尖閣諸島についていえば、オバマ大統領が中国の軍事攻撃に対して反撃しようとした場合、上院議員の60人の賛成が必要になる。アメリカ議会では戦争については下院よりも上院が力を持っている。上院が絶対多数を持っていれば戦争の法案も通りやすい。

逆にいえば、尖閣諸島を中国が攻撃し、日米安保条約に基づいてアメリカがこれに対応しようとすれば、少なくとも上院議員60人の賛成が必要になる。

現在アメリカ上院では、与党民主党が53の議席を持っているが、60に達していないので、野党議員の協力を必要とすることになる。そのうえ与党側にも戦争には絶対反対という議員がいる。上院で60票の票を集めるのは容易なことではない。というよりも戦争の理由次第によっては60という票はきわめて集めにくい。

すでに述べたようにアメリカ国民は戦争に飽き飽きしている。まして外国のために戦争するなどまっぴらだと思っている。中国が尖閣諸島を攻撃してオバマ大統領がアメリカ軍を動かしたとしても、戦争を続けるために議会の60票を集めることは恐ろしく難しい。

アメリカ政治の現実を見ると、日米安保条約というのは架空の軍事同盟になりつつある。アメリカが日本を守るために軍事行動を起こすことが非常に難しくなっているからだ。

ヨーロッパ諸国は、アメリカと安全保障上の取り決めを結ぶことを嫌っている。NATOのような集団安全保障条約に基づく行動を除けば、アメリカはもはや軍事同盟国として信用しがたいと考えているからである。

日米安保条約は、日本があてにできる取り決めではなくなっている。食べ物でいえば、賞味期間が終わったというべきだろう。日米安保条約に国の安全のすべてを頼ってきた日本に、恐るべき事態が迫ってきているのである。

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