ケーキの革命児が「アナログ」で成功したワケ
2012年10月30日 公開 2022年08月24日 更新
洋菓子の「ボンボヌール」を設立し、その斬新なスタイルから「菓子業界の革命児」と評された近藤昌平氏。
「ケーキ屋さん」と呼ばれる一方で、ケーキは大勢の人を笑顔にし、そうすることで自分の人生を豊かにするための"手段"だったと言います。
近藤氏がケーキよりも重要視し、「やり過ぎるぐらいがちょうどいい」と言い切る"お礼とサービス"とはどのような処世術なのかを紹介します。
※本稿は近藤昌平氏著、『お礼とサービス、やり過ぎくらいがちょうどいい』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「ケーキ屋さん」がケーキよりも大切にしたもの
私は人から「ケーキ屋さん」と呼ばれることが多いです。10年前までケーキを売ってきたので、当然それは間違いではありません。ただ、その仕事がいわゆる並の「ケーキ屋さん」とは決定的に違っていたのもまた、確実だと思います。
パステルカラーが常識だったケーキ業界で真っ黒のパッケージと真っ黒の名刺をトレードマークにしたり、数多(あまた)の老舗をかき分けて「引き出物といえば、これ」という商品を開発したり、総計数万人が参加する異業種交流会を開催したり......。
思えば私にとって、ケーキは"手段"だったと言えます。圧倒的に大勢の人を笑顔にし、そうすることで自分の人生を豊かにするための手段。
ケーキを媒体に、人と自分の人生、それに人間関係を豊かにできた私には、もうひとつ、なくてはならないツールがありました。
それが"お礼とサービス"です。
そのツールがいかに「想像以上」の効果を発揮するか、私の仕事を振り返りながらご紹介したいと思います。
「ぬくもり」のある人付き合いをしていますか?
たとえば、あなたは最近、誰かに手紙を書きましたか? それも、パソコンなどで出力したものではなく、直筆の手紙です。
恐らくほとんどの方が「そういえば、この前に手紙を書いたのはいつだっけ?」と、記憶をたぐり寄せているのではないでしょうか。「考えてもまったく思い浮かばない」という方も、少なくないかもしれません。
私は普段、誰かとお会いしたら、その日のうちに相手の方へお礼の手紙を書きます。誰かにお世話になったり、うれしいことをしていただいた場合も同様で、そういう感謝の気持ちはメールではなく、必ず手紙にしたためるようにしています。
理由は、手紙というツールにはすごい力があると強く実感しているからです。
あなたもきっと、自分あてに書かれた手紙を読むときのわくわくした気持ちや、手書きの文字に表れた書き手の個性を感じてほほえんだ記憶があるでしょう。
地球の反対側にいる人にも数秒でメッセージを送ることのできるメールは、場合によっては実に便利な手段です。それでも、手紙をもらったときのあのうれしい気持ちは、メールでは味わえないのではないでしょうか。
書き手、郵便局員、配達員など、たくさんの人の手を経て届く手紙には「ぬくもり」があります。そして、デジタル社会と言われる昨今、パソコンと慣れ親しんだ現代人が無意識のうちに求めているものこそ、その「ぬくもり」なのです。
なぜなら、人間はロボットではなく、心のある生き物だから。
パソコンに表示される文字はみな画一的で、誰が書いても同じで、ぬくもりが感じられません。だからこそ、少しよれていたりシワが入っていたり、書き手の想いや痕跡が残されている手紙は、人々の心を揺さぶるのです。
人との付き合い方においても同様のことが言えます。誰もがいま「ぬくもり」の感じられる付き合いを求めているのです。
仕事とプライベートを完全に切り分けて、数字を重視し、職場ではひたすらドライな人間関係を追求する人もいます。書店には「デジタル機器を活用して、いかに効率よく業務的に進めるか」を説いた仕事術の書籍がところ狭しと並んでいます。
「効率化」という御旗のもとに、人と人との親密な付き合いも次第に簡素化され、義理人情や恩という日本古来の美徳が、次第に「古くさいもの」として扱われるようになりました。