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ランキング情報に頼らない病院選び

小林修三(湘南鎌倉総合病院院長代行/昭和音楽大学客員教授)

2015年06月25日 公開 2023年02月02日 更新

 

「肩書き」と「腕の良さ」は比例しない

では、雑誌の医療特集で登場する医師はというと、ほとんどが「○○大学病院の教授」や「△△センター長」といった肩書きの持ち主が多い。肩書きが良いほうが、読み手にとって説得力が増すのだろう。

では、肩書きと、医療技術の高さは比例するのだろうか?

これは、外科系か内科系かで、事情は異なる。

まず、外科系の場合、やっぱり技術がなければ上にはいけないようになってきている。特に私立大学ではそうした傾向が顕著で、論文の数よりも、手術件数や手術成績といった実績が問われる。

あるいは、マスコミへの露出が多い、つまり有名な医師を教授にする傾向もある。総じていえるのは、「どれだけ患者が呼べるか」が教授選考の大きな決め手となるということ。

一方、国立大学の外科系は、これまでは論文志向が強く、どれだけ論文を書いたか、有名医学ジャーナルに載ったかが、教授選考で重視されてきた。

でも、最近では、国立大学でも「論文だけではダメだ」という風潮が出てきて、手術実績も問われるようになってきた。選考過程で、実際の手術手技を確認することもある。さらに、大学では教育も重要なので、研修医に対して教育する姿を確認することもある。

国立大学病院の教授選といえば、ドラマにもなった山崎豊子さんの『白い巨塔』(新潮社)を思い出し、ああした派閥争いが行なわれているんじゃないかと思うかもしれない。しかし、さすがに時代は変わって、旧来の悪しき風習を見直し、公明正大な選考をする大学が増えてきている。

ただ、派閥がまったくなくなったかといえば、そうではない。国立大学でも、地方に行けば行くほど、判断基準があやふやで、「俺の後釜は彼でよろしく」といった派閥人事や、『白い巨塔』のような「学長選で応援してくれたら、お前を教授にする」といったパワーハラスメントがまだまだある。

派閥人事でも、技術が伴っていれば問題ないが、そうとは限らないので、国立大学病院の教授といえども「腕はそんなに……」という先生も残念ながらいるだろう。

内科系はというと、内科はいかに早く的確な診断ができるかが腕の見せどころのため、昔から論文が重視される。その上で、診療において他科と連携をとったり、多職種でチーム医療を行なっているかといったことも求められるようになってきた。

論文といっても、基礎医学(動物実験や試験管の中での現象追求)の論文と、臨床医学(実際のヒトを対象にした)の論文とがあるので、バランスのある報告がなされているか、あるいは論文は少なくても、院内での他科との症例検討会に積極的に参加し、かつリーダーシップを発揮しているかが大切である。

「『肩書き』と『腕の良さ』は比例するか?」と問われれば、「そうとは限らない」と答える。ただし、昔に比べれば、技術がより重視されるようになってきていることは確かだ。

 

名医に直接かかれなくても大丈夫

ところで、有名な医師、評判の良い医師にかかりたいと思って病院を受診しても、その先生の診察は数カ月待ちでお目当ての医師にはかかれなかった、なんてこともよくあるだろう。

一人の医師をお目当てに病院に行っても、その医師にかかれるとは限らない。でも、たとえ別の医師に診てもらうことになったとしても、私は落胆する必要はないと思う。

医師が担当できる人数には限りがあるので、入院中の処置や検査は他の医師が担当しても、手術はもともとのお目当ての有名先生が執刀してくれるということもあるだろう。

あるいは、反対に、最初の外来は有名先生が診察してくれたのに、いざ入院してみたら違う先生が担当医になって、手術もその先生だった、ということもある。

でも、自分のところに来た患者さんというのは、たとえ自分が直接担当できなくても、責任があるので、経過を確認しているものだ。

そもそも医療はチームで行なうものなので、たとえば「すい臓がんの名医」「心臓手術のスペシャリスト」と評判の医師がいる場合、じつはその有名先生だけではなく、その先生が率いるチーム全体が優秀ということが多い。

最近も、有名な外科医が別の病院に移ってから、医療事故が相次いだ報道があった。それはその外科医の技術の問題というよりも、それまで在籍していた病院の、チームによる力が大きかったのではないかと想像する。

ちなみに、よくテレビにも登場し、有名なある先生は、今ではほとんど手術を執刀することはないという。その先生の右腕となる医師がいて、その医師がすべての手術を執刀していると聞く。

有名先生のもとで十分な経験を積んで、気力、体力ともに備わっている40歳前後の外科医が手術をしたほうが良い、という判断なのだろう。

こうしたケースは珍しいことではなく、よくある話だ。有名人の手術を成功させた医療陣が記者会見をし、教授がマイクを持って説明をしていたものの、実際の執刀医は隣に座っていた一回り若い外科医だった、ということもままある。

ただ、言えることは、その有名医師が「指導」して全般の監督責任を負い、大きな力となっているのは間違いない。

有名な先生に手術を執刀してもらいたくてその病院を受診したのに、別の先生が担当することになりそうで、病院を変えようか迷っている…という患者さんがたまにいらっしゃる。

でも、ある医師の治療実績が優れているとしたら、そのチームが一流ということだから、別の医師が担当することになっても、そのままかかって心配ないと思う。

医療というのは、やり直しがきかないため、比較することができない。

「あの先生に手術してもらった場合」と「別の先生に手術してもらった場合」を比較することはできないため、実際に有名医師に手術をしてもらえれば、「この先生がやってくれたんだから」という満足感はあるかもしれない。

たとえ、好ましくない結果になってしまったとしても、「この先生に執刀してもらってダメだったんだから、よっぽど自分は悪かったんだろう」とあきらめることはできるかもしれない。しかし、その満足感やあきらめが妥当なものかどうかは、比較できないのだから、わからない。

 

著者紹介

小林修三(こばやし・しゅうぞう)

内科医、医学博士、湘南鎌倉総合病院副院長、腎臓病総合医療センター長

1955年、大阪市生まれ。1980年、浜松医科大学卒業(一期生)。同大学第一内科入局。1981年、浜松赤十字病院勤務。1987年、文部教官第一内科助手。1988年、テキサス大学サンアントニオ校 病理学客員講師。1990年、浜松医科大学第一内科助手に復職。1992年、NTT伊豆逓信病院内科部長。1998年、防衛医科大学校第2内科講師。1999年より現職。
著書に『ベートーベン・ブラームス・モーツァルト その音楽と病』(医薬ジャーナル社)などがある。

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