《隔月刊誌『PHP松下幸之助塾』より》
経営者が語るべき夢と未来
経営者はいかに組織を率いるべきか? 組織に常に活力を与え続けるヒントとは何か?拡大する組織を見据え、リーダーシップの本質と自立した社員を育てていくための要諦を、業界も歴史も違う企業の経営者、大和ハウス工業会長兼CEO・樋口武男氏とファーストリテイリング会長兼社長・柳井正氏に語り合っていただいた。場所は、六本木のファーストリテイリング東京本部。「わざわざお越しいただいて」と樋口会長を出迎えた柳井会長。対談はまずお互いの試練のビジネス戦記から始まった――。
<取材・構成:坂田博史/写真撮影:永井 浩>
★樋口氏の「樋」の正しい表記は[木]偏に「通」です。(WEB編集担当)
<中略>
会社の主役はだれか?
柳井 いい会社、いい組織をつくろうと思ったら、当たり前のことが当たり前にできるようにすることです。
ほとんどの人は、当たり前のことが当たり前にできているように錯覚しているだけで、ほとんどできていない。
1つひとつは小さなことだけれども、コツコツコツコツ改善していく。単純にオペレーションを回すだけではマンネリになりますが、改善して、いい方向に変えていく。日本人は、これが得意ですから、改善がイノベーションを生むと思っています。
世の中は凡人ばかりで、秀才や天才はほとんどいません。私は、「ピープルビジネス」と呼んでいますが、いかに一般の人たち、つまり、凡人がやっても成功するような仕事の仕方にしていくか。それが重要なのではないでしょうか。
樋口 改善、改善と言いながら、人によっては改悪になることもあるので、そこは注意が必要ですが、凡事徹底は、私の口ぐせの1つですよ。
柳井 1つだけ経営で大失敗したことがあって、それは「会社の主役は店長」としたことです。
現実はいい店長ばかりではありません。自分を中心にしたヒエラルキーをつくる悪い店長もいます。
経験があって、他人のことを思える店長ばかりだといいのですが、自分のことしか考えない店長も中にはいる。私は、「弱い体育会系」と言っているのですが、こういう組織では、ほんとうのことが伝わらなくなります。
そこで、3、4年前から、「会社の主役は社員」となるようにガラッと変えました。
私たちが若いときは、日本が成長していましたから、エベレストに登ってやろうとか、富士山に登ってやろうとか夢がありました。今の人は、どこにも行きたがりません。自分の世界で生きていきたい。でも、近所に500メートルの山があったら、まず、それに登ることから始めてみなさいと言っています。社員一人ひとりが主役であり、挑戦者である会社に変えたのです。
樋口 確かに、私たちは貧しい中で育ったせいか、馬力もあったし、野心とか野望というものもありました。
そういう人が少なくなったかもしれませんが、なかには必ずいます。馬力があって野心もある人を見つけて、その人たちに任せることが大切です。
弊社には、グループ全体で5万6000人くらいの従業員がいます。自分一人で全部掌握できるはずもなく、組織をつくって任せるしかありません。
柳井 仰るとおりです。私のほうも9万人以上の社員がいて、しかも世界各国に出ていっています。アメリカやヨーロッパのブランドの経営までやっていますが、これは、私にはできません。
そこで、世界でいちばんいい方法でやろうという「グローバルワン全員経営」を掲げました。だから幹部社員はたいへんで、毎週のように世界を飛び回っていますよ。
樋口 現在の海外の売上比率はどれくらいですか。
柳井 36パーセントくらいで、店舗数はまもなく海外が国内を上回ります。
樋口 私たちは、まだ海外の売り上げが1000億円にも満たないのが実情です。全体の売り上げが約3兆円ですから、海外比率は極めて低く、海外事業をやっていますと言える状態では残念ながらありません。
ぜひ、馬力と野心のある社員を見つけて任せていきたい分野です。
☆本サイトの記事は、雑誌掲載記事の冒頭部分を抜粋したものです。