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竹中平蔵 2020年、日本と世界の大変化を生き抜くために

竹中平蔵(慶應義塾大学教授/株式会社パソナ取締役会長)

2016年01月13日 公開 2024年12月16日 更新

『大変化 経済学が教える二〇二〇年の日本と世界』(PHP新書)より

 

「どうなる」ではなく「どうする」を考えよう

「コンパス」を持っているか

 2020年以降、日本や世界はどうなっているのか。

 巷間よく言われるように、財政破綻が近いのか。それとも「アベノミクス」が奏功して経済財政ともに再生するのか。それに伴って、私たちの暮らしや働き方はどう変わるのか。さらには混沌とするEUや、景気減速が顕著になった中国はどうなるのか。

 こうした国内外にある諸問題に対し、私なりの「未来予想図」を提示したのが本書です。

そこで、各章の冒頭には、簡単にその「見取り図」を示しました。来たるべき未来の全体像を摑んでいただいた上で、その後の解説をお読みいただければと思います。

 ただし、私が本書を執筆した意図は、たんに「未来予想図」を示すだけに留まりません。

「これからどうなるか」を知ることではなく、「これからどうするか」を読者自身が考える、そのきっかけにしていただきたいと思っているのです。

 マサチューセッツ工科大学のメディアラボには、「The Principles」と題された9つのキーフレーズが掲げられています。インターネットが登場する前(before Internet)と登場後(after Internet)では世の中のパラダイムが変わったとして、具体的に9つの大きな変化を挙げているのです。

 その中に、私がとりわけ興味を持ち、未来をもっとも象徴的に表していると思う言葉があります。

「Compass over Maps」──地図よりもコンパスが重要な時代になる、ということです。

 変化の激しい昨今、地図はすぐに上書きされます。最新版を手に入れても、しばらく経つと役に立たなくなる。しかし、どれほど地形や境界線が変わっても、コンパスがあれば自分の進むべき道がわかります。針路はそれぞれが決めることですが、その根拠となる自分なりの哲学や座標軸を持つことが、これからの時代には非常に重要になるということです。

 従来、人生の地図には「定番」がありました。偏差値の高い有名大学を出て、一部上場の大企業に入り、管理職に就き、一戸建ての家を持ち、生涯安定的に暮らす、というものです。

 しかし、みなさんも感じていらっしゃるとおり、今やそんな地図は何の役にも立ちません。いい大学を出ていい会社に就職したと思っても、その会社がいつまで存続するかわかりません。勤め先が外資系の会社に買収されて、ある日を境に業務内容がガラリと変わる、ということも実際に起きています。あるいは会社は存続しても、自分の席が無事に残るとは限らない。そのとき、古い地図しか持っていなければ、たちまち路頭に迷うことになるでしょう。

 

知識が陳腐化してしまう世界

 ここで重要なのが、「自分にはこれができる」というものを持っていることです。例えば、「財務のプロフェッショナルとしてやっていく」でもいい。あるいは「この方向に進めば間違いない」という信念を持つことでもいい。こういう確固としたものがあれば、慌てることはありません。それが「コンパスを持つ」ということです。

 そう考えると、「Compass over Maps」とは、21世紀を生きていく私たちにとって象徴的な言葉のような気がしてきませんか。

 とりわけ教育において、この言葉は重要な意味を持つと思います。かのアインシュタインは、「教育とは、学校で習った知識をすべて忘れた後で、自分の中に残ったものを指す」と述べています。ここでいう「知識」が「地図」に相当します。便利なものではありますが、

すぐに陳腐化するし、じつは間違っていたということもよくあります。

 例えば鎌倉幕府の成立年を「いいくに(1192年)」と覚えた人は多いと思いますが、最近の歴史教科書では1185年と記されています。つまり知識自体は、あまりアテにできないわけです。

 しかし、知識をひととおり得た後で概念のようなものを摑み、俗にいう「地頭」を鍛えることができれば、人生のあらゆる場面で役に立つ。それは本人の意志と努力しだいで身につけられるものだと思います。

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「自力」を鍛えることがますます必要とされる時代に

著者紹介

竹中平蔵(たけなか・へいぞう)

東洋大学教授・慶應義塾大学名誉教授

1951年、和歌山県生まれ。1973年、一橋大学経済学部卒。2001年、経済財政担当大臣に就任。以後、金融担当大臣、総務大臣などを歴任する。2013年、安倍政権で産業競争力会議有識者委員に就任。著書に、『竹中流「世界人」のススメ』(PHPビジネス新書)ほか多数。

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