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呉善花 「反日韓国」の苦悩

呉善花(評論家/拓殖大学教授)

2016年03月01日 公開 2022年11月16日 更新

『「反日韓国」の苦悩 』序に代えて

 

いま、韓国で起きていること

韓国は李明博政権の後半から反日姿勢を強め、2013年2月に朴槿惠が大統領に就任してからは日韓関係がさらに悪化しました。

日本ではしばしば「朴槿惠大統領は本音では親日なのだが、国民のあいだに反日の声が強いので、仕方なく反日姿勢を取っている」と言われます。しかし、これは明らかな間違いです。そうではなく、反日は韓国では「民主的な政治家」と見なされるための必須の要件であり、国民情緒の動き方しだいで穏健だったり強硬だったりするだけのことです。

現在の韓国では、民意とは事実上、国民情緒を意味し、「民意は天意」とするポピュリズムが、政治世界を強く支配しています。朴槿惠大統領は、の意味での民意=国民情緒に最も忠実に従ってきた大統領だと言ってよいでしょう。

近年、とくに韓国の反日がエスカレートしている一つの理由として、李明博政権の後半頃から韓国社会が経済的にも社会的にも、急速に不安定さを増してきていることが挙げられます。

2013年初頭にアベノミクスが始動してからは、日本経済は急速に息を吹き返し、その一方で、ウォン高進行を契機として韓国経済が大きく揺らぎはじめました。これに対して韓国政府は、「アベノミクスが韓国経済を圧迫する」と、韓国経済の不振と自らの失政を日本に責任転嫁するような主張まで行っています。

韓国は、明らかに不況の時代に突入しています。

2015年10月に韓国銀行が発表した「2014年企業経営分析」によると、韓国製造業の売上高は前年比マイナス1.6%と減少に転じ、同調査を始めた1961年以来、初めてのマイナスになりました(2015年10月28日付・韓国『中央日報』日本語版、「韓国製造業、昨年の売り上げ史上初の『後退』」)。

また、産業通商資源部が11月1日に発表した「2015年10月の輸出入動向」によると、韓国の同年10月の輸出額は前年同月比約16%減で、10カ月連続で減少を続けているというのです(2015年11月2日付・韓国『ハンギョレ新聞』、「輸出不振の韓国、過去6年で最大の下落幅」)。これは過去6年間で最大の落ち込みであり、GDPに占める貿易依存度が約37%に達している韓国経済にとって非常に大きなダメージだと言えます。

さらに、2015年11月21日付の『朝鮮日報』日本語版では、韓国の主要30企業グループのうち、営業利益を出しているのはサムスンと現代自動車だけだと報じられています。そのサムスングループの中核であるサムスン電子でさえ、製品在庫が史上最多レベルに達し、開発センターの職員の3分の2、管理職の30%を解雇する見通しだという報道があるほどです。

こうした状況下で、野党の厳しい政府批判が国民の支持を大きく広げ、保革逆転が確実視されるまでになっています。そのため、政府与党も国民の人気を得ようとして野党に負けじと「反日愛国」の姿勢を強めていくわけです。政府は国内の批判をかわすため、国外の敵(日本)に国民の関心を強く惹ひ きつけておかなくてはならないのです。

ここで重要なのは、現在の韓国では「政治・経済・社会・家族・個人間と、あらゆる面での倫理が音を立てて崩れ落ちている」ということです。実はこれこそが、韓国国内問題の最たるものなのです。私は、この問題と真剣に取り組まないかぎり韓国に未来はないと考えています。

韓国で倫理崩壊が始まったのは、通貨政策の失敗と金融システムの脆弱性から経済危機に陥り、IMFに資金援助を要請して国家経済がIMF管理下に置かれた時期(1997年11月~2001年8月)からのことです。

IMFの経済管理下で、あっという間に欧米並みの「自由競争市場」への市場開放がもたらされ、企業内では極端な「成果主義」が採用されていきました。それらの改革は、日本のように緩やかに時間をかけて進められたのではありません。「ある日突然、経済秩序が一変した」と言ってよいほど急激なものでした。

ですから、社会に亀裂が走らないわけがありません。

昨日まで信頼し合っていた同志や仲間だった者が、一晩で相手を追い落としてでも生き残ろうとする敵へと変身する。親戚の金まで騙し取ろうとする者が出てくる。どこもかしこも金、金、金の世の中になってしまった─。

「利己主義」「人間不信」の嵐がすさまじい勢いで吹き荒れたのです。そして、一部には続々と億万長者が誕生する一方で、光熱費や子供の給食費を支払えない家庭や家族ホームレスが、かつてないほど増大しました。まさに優勝劣敗の社会現象が激しく進行したのです。その惨状について、2002年当時の韓国の新聞は次のように書いています。

「今、韓国社会を支配しているのは『カネが最高』という極端な拝金主義だ。一晩明けたら数十人ずつ不労所得の億万長者が誕生し、数多くの人が職を失う外貨危機を経験したにもかかわらず、この拝金主義は極大化した。その過程で国の中枢機能を担当している機関と組織の人間が次々と腐敗の鎖に食い込まれていった。長い歳月のあいだ我々を支えてきた礼儀、友情、尊敬、孝行、忠誠のような精神的な支えは、力なく崩れ落ちている。革命的な変化が起こらなければ韓国社会の腐敗と堕落を防ぐことはできない」(『朝鮮日報』2002年1月3日)

こうして2002年以降の韓国では、勤労者の賃金格差、財閥と中小企業の格差、上下階層の所得格差が急激に広がって社会の二極化が深化していきました。

中間層が縮小し、大量の貧困層が生み出されていきました。そのように国民生活を犠牲にしながら、国家経済、一部富裕層、財閥大企業の繁栄がもたらされてきたのです。

それでは、現在の韓国はどうでしょうか。

先の新聞記事そのままの拝金主義が跋扈している。いや、いっそう悪化している─そう言わざるを得ません。

かつて韓国人の美徳だった「年長の人を敬うやまう精神」が失われ、老人の自殺が急増し、同時に若者の自殺も増大しました。

失業者が増加し、世帯主が家計を支えることができなくなると、離婚や女性の不倫が社会問題化する一方、子供が親の面倒を見たくないというケースが増加し、親子の同居が大きく減少しました。

さらには、かつて金大中政権が国策としてIT化と英語教育に力を入れた結果、パソコンも英語もできない高齢者たちを、若い世代が蔑視する風潮さえ生まれています。

なぜこんなことになってしまったのでしょうか。

明らかに、その直接的な原因は経済再建にともなう「経済改革」の失敗にあります。しかし根本にあるのは、韓国特有の「集団利己主義」です。別の言葉で言えば、「韓国社会の構成単位が、いまなお、内側に閉ざされた血縁や地縁の小集団としてある」ということです。

それら小集団が自分の利益だけを追求し、他人の迷惑など考えず、各個闘争し合うところに生じるエネルギーが社会を動かす活力となっていたのが、旧時代の韓国であり、現在の韓国でもあるのです。

日本のように、血縁や地縁の関係を異にする人々が一緒になって一つの共同体を形成し、それがさらに横のつながりをもって連帯していく─といった社会の条件が、韓国では、いまなおあまりにも弱いのです。

本書では、こうした日本人には理解しがたい面を多々抱える韓国人の、国民性や国民感情、韓国社会の慣習などを紹介し、日本との違いを見ていくことで、日本と韓国とのあいだに横たわるカルチャー・ギャップを明らかにしていきたいと思います。

著者紹介

呉善花(お・そんふぁ)

拓殖大学教授

1956年、韓国・済州島生まれ。83年に来日し、大東文化大学(英語学)卒業後、東京外国語大学大学院修士課程(北米地域研究)修了。現在、拓殖大学国際学部教授。著書に『さらば、自壊する韓国よ!』(WAC BUNKO)、『日本にしかない「商いの心」の謎を解く』(PHP新書)などがある。

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