「売り上げが上がらない」 それは本当に「問題」なのか――問題解決の極意
2016年03月27日 公開 2024年12月16日 更新
『なるほど納得! 問題解決の極意』より
(装丁:斉藤よしのぶ、本文イラスト:きしらまゆこ)
頭の良し悪しは問題ではない。大事なのは頭の「使い方」だ!
『ザ・ゴール』著者、ゴールドラット博士の側近中の側近として活躍し、「問題解決」の極意をきわめた岸良裕司氏。その岸良氏が、仕事や勉強など、人生のあらゆる場面で結果を出すための「奥の手」を伝授するのが本書です。ここでは、本書で紹介されている極意のひとつを紹介します。なお、ここに登場するネズミ「ラットくん」のモデルは、ゴールドラット博士です。
問題とは何だろう? 問題は「目標と現状のギャップである」と一般に良く言われている。ところで、次の事柄は「問題」として定義してよいものだろうか?
利益が出ない。売上が上がらない。商品力が落ちてきている。シェアが落ちてきている。会社の風土がおかしくなってきている。現場のチームワークがない。営業力が落ちてきている。現場の志気が上がらない。
明らかなのは、これらの事柄には目標が表現されていないことである。だから正確に言えば、問題と定義するのには無理がある。むしろ、これらの事柄は、結果としての望ましくない現象、いわゆるうわべの症状と言った方が良いことになる。
咳が出ている時に咳止めを飲む。すると咳が止まる。でも、もしも肺炎が原因で咳が出ていたとしたらどうだろうか? 咳は止まったけど、その止まった期間も原因である病気は進行してしまう。そして咳とは違う形で、高熱や体がだるいなどの症状を引き起こす。対処療法だけをしても原因を放置している限り、時間が経つにつれ病状はさらに大きくなり、別の形で次々と新たな症状が現れてしまう。
我々の周囲をとりまく現実にある、たくさんの様々な望ましくない現象。これらの現象はつながっているのではないだろうか?
こういう疑問を持つのは、不思議なことではない。様々な現象の数々は、何らかの根本的な原因からきている枝葉末節の症状なのかもしれない。それらの症状をつなげてみて、その根本的な原因を探してみる。すると、複雑に絡み合っているように見えるモノゴトも、そのつながりを活かしてシンプルに捉えることができるようになる。
そして様々な望ましくない症状の根っ子にある根本的な原因が見つかれば、それに集中して取り組むことが可能になる。
ところで我々は目標として、どんな望ましい現象を作り上げたいのだろうか? 先ほど挙げた現象の数々が望ましくない現象なら、それらは裏を返せば望ましい現象を考えるのに以下のように使うことができる。
利益が出続ける。売上が上がり続ける。商品力が上がり続ける。シェアが上がり続ける。会社の風土がすばらしくなっている。現場にはチームワークがある。営業力が上がり続ける。現場の志気が上がり続ける。
うわべの症状の数々を、何らかの根本原因の結果にすぎないと認識することは、それに集中して取り組むことを可能にする。もしも今、うわべの症状の対処にたくさんの人が振り回されているとしたら、その分たくさんの人が協力して、集中して根本原因の解決に取り組むことができる。それは解決への時間を大幅に短縮する。
根本の問題を解決するということは、ほとんどすべての望ましくない現象を解消するということ。それはたくさんの人にとって望ましい現象を実現するための、一番の近道ともなる。このような活動であれば、周囲の協力も得やすくなり、チームワークも上がり、問題の解決を加速することにもなるだろう。
問題が複雑と考えるのか、複雑に見えると考えるのか。それは、我々の認識次第。
複雑に見える様々なものが、つながって、その本質が見えてきた瞬間、「分かった!」と人は叫ぶ。そして、それは問題解決の突破口を見つける瞬間であり、時には人に喜びという感情さえもたらすことになる。
著者:岸良裕司(きしら・ゆうじ)
1959年生まれ。ゴールドラット・コンサルティング・ジャパン代表取締役。日本TOC推進協議会理事。TOC(Theory Of Constraints:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践。活動成果の一つとして発表された「三方良しの公共事業改革」は、ゴールドラット博士の絶賛を浴び、2007年4月に国策として正式に採用される。成果の数々は国際的に高い評価を得て、2008年4月、ゴールドラット博士に請われてゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任した後、日本代表となる。主な著書に『全体最適の問題解決入門』『考える力をつける3つの道具』『「よかれ」の思い込みが、会社をダメにする』(以上、ダイヤモンド社)、『最短で達成する 全体最適のプロジェクトマネジメント』『出張直前! 一夜漬けのビジネス英会話』(以上、KADOKAWA/中経出版)などがある。