1. PHPオンライン
  2. 社会
  3. 野田佳彦 松下幸之助さんの教えに学んだこと

社会

野田佳彦 松下幸之助さんの教えに学んだこと

マネジメント誌『衆知』

2016年06月01日 公開 2022年08月18日 更新


※取材・構成 坂田博史
※『衆知』2016年5・6月号、創刊特別企画「幸之助さんの教えに学んだこと」より一部抜粋

 

「素志貫徹」があったから落選、浪人を乗り越えられた

千葉県議会議員に2度当選したあと、1993年の衆議院議員選挙でも当選することができました。

しかし、小選挙区比例代表並立制が導入されて初めての選挙では105票差という僅差で敗れました。

3年8カ月、39歳から42歳という、いわば、一番働き盛りの活きのいい時期に浪人となってしまい、「何でこんなことになったのだろう」と思い悩みました。

ただ、考えてみれば、松下さんも戦前は松下電器(現パナソニック)を大きな企業に育てていましたが、敗戦後しばらくは苦しい時期が続きました。

この時、松下さんは50代。それに比べたら、私は若く、まだまだこれからだと考え、歯を食いしばりました。

塾で毎朝、唱和していた「五誓」の1つで、私の座右の銘でもある「素志貫徹」という言葉があります。

これは、「常に志を抱きつつ懸命に為すべきを為すならば、いかなる困難に出会うとも道は必ず開けてくる。成功の要諦は、成功するまで続けるところにある」というものです。

つまり、あきらめた時に失敗となる。この哲学があったから、浪人時代をかろうじて耐えられたのではないかと思います。

私にとっての「素志」は、政治を通じて世の中をよくしたいということです。今を生きている人だけでなく、将来世代のことも考えた国益の実現こそが仕事だと思っています。

そして、もう1つ私の支えになっているのが、塾に掲げられていた「大忍」です。

政治家というのは、あることないこと批判にさらされる仕事です。何を言われても冷静に受け答えしなければなりません。

特に総理大臣の時は、それこそ忍耐どころではない、大忍の連続で、1年4カ月間ずっと大忍でした。

怒っている時の判断は誤ることが多いですから、いかに自分をコントロールするかが肝心で、常に「大忍、大忍」と心の中で呟いていたように思います。

 

「新国土創成」と「無税国家」をどう現代版にバージョンアップするか

松下さんは、数々の日本の将来ビジョンを打ち立てました。その中で私は特に、「新国土創成」と「無税国家」をどうやって現代版に置き換えて実現するかを考えてきました。

松下さんの新国土創成は斬新で、海を埋め立てて国土を広げるというもの。これは現代でもそう簡単ではありません。

日本は、国土面積では世界で61番目の小さな国ですが、見渡せば6000もの島があります。この島々を、島らしくするために7億円の予算をつけたのが財務副大臣の時でした。岩と呼ばせないために港をつくったりしたのです。

6000の島々を基点として管理できる海(200海里排他的経済水域)の面積は世界で6番目、体積は世界でなんと4番目です。

海には豊富な資源があります。海底にもメタンハイドレートやレアメタル、レアアースなどの貴重な資源が眠っています。これらを守りながら開発していく。それが新国土創成の一つめのフロンティアです。

そして、もう一つのフロンティアが宇宙です。

近年、ロケットは落ちることなく順調に飛び続けています。町工場から高等専門学校まで衛星づくりに取り組んでおり、産業の裾野も広く、宇宙飛行士も諸外国と協力して着実に育っています。種子島宇宙センターにはロケットの発射場もあり、日本は間違いなく宇宙開発先進国です。

宇宙開発はきちんと司令塔を置いて、予算をつけていけば、世界をリードすることができる、新国土創成のフロンティアなのです。

このように、日本の国土面積という“面”で考えるのではなく、海へ宇宙へと立体的に考えることで「新日本創成」を考案し、海洋基本法は前原誠司氏が、宇宙基本法は私が、超党派での議員立法に参画しました。

無税国家についても考えてきました。松下さんが無税国家論を唱えた時は、右肩上がりの時代で、税収も財政支出も増えていました。

1990年のバブル崩壊直前には、税収が約60兆円あり、財政支出が70兆円で、その差10兆円でした。税収のほうが毎年伸びていましたから、いずれ支出を追い越せると誰もが思っていたのです。

だから、無税国家論にもリアリティがありました。

しかし残念ながら、税収は90年をピークに、50兆円、40兆円と減り続けました。逆に支出は、80兆円、90兆円、100兆円と増え続けています。

税収は右肩下がり、支出は右肩上がりという「ワニの口」状態の時に、私は財務大臣、総理大臣になりました。

無税国家を目指したいのはやまやまでしたが、財政がワニの口状態では、まずは口を閉じるのが先決で、それが私の仕事だと考えました。

2010年から20年まで、初めて10年間の財政運営戦略を立て、15年にプライマリーバランスを黒字化し、20年には財政収支を黒字化することを目指しました。

松下さんには、これでもひどいと怒られると思いますが、それでも財政を立て直すには、まずはワニの口を閉じるしかなかったのです。

関連記事

アクセスランキングRanking