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素直な心が幸福を招き寄せる~松下幸之助の目指した幸せのかたち(4)

大江弘(PHP研究所社会活動部長)

2016年07月13日 公開 2022年10月27日 更新

 

素直な心とは

松下幸之助は、お互いに天分を見出し、それを十分に生かしつつ成果をあげていくなら、みんなが幸福に暮らすことができると考えました。では、どうすれば天分をつかむことができるのでしょうか。

松下は、第一に自分の天分を見出したいという強い願いをもつことが大切だと言います。そうした強い思いをもっていると、日頃見過ごしてしまいそうな体験の中からでも、自分の天分がどこにあるかの気づきが得られやすくなるからです。また、自分はこの方向に向いている、という内なる声が聞こえてきたり、周囲の人が、君にはこういう天分があるのではないかと教えてくれることもあるでしょう。

第二に松下は、素直な心をもつことだと言っています。

自分の顔かたちや体の特徴、運動能力などは、見たり測ったりすることができます。一方、生まれながらの資質なり個性というものは、見ることも測ることもできないため、なかなか把握することができません。自分の長所や短所でさえ、きっちりつかんでいる人はそういないでしょう。自分のことは自分が一番よく知っているというのも確かなことですが、自分の顔を直接、自分の目で見ることができないように、自分を一番わかっていないのが自分自身というのも正しいと言えるでしょう。

たとえばボイスレコーダーに自分の声を吹き込んで聞いてみると、自分が日頃聞いている声と違うことに気づきます。そして自分以外の人がみな、その吹き込んだ声を聞いていると知って驚かずにはいられません。また、自分ではよい姿勢で颯爽と歩いていると思っていたのに、後ろ姿を撮影してみると思いもかけず猫背でとぼとぼ歩いていることにショックを受けることもあります。自分がわかっているのは自分のごく一面であり、多くは実は見えていないと言えるかもしれません。内面的なことはなおさらでしょう。

物事を正しくつかむには、あるがままに見、考え、受け止める必要があります。しかし、往々にして私たちは、自分の願望や私欲私心などのために物事を見誤りがちです。それは、色眼鏡をかけて物を見ているようなもので、赤いレンズを通して見れば白も赤く見えます。“幽霊の正体見たり枯れ尾花”のように、怖い怖いと思っていると、枯れたススキが揺れている姿を幽霊と見間違うということもあります。

そこで大切なのが、私欲私心、先入観や偏見、感情等にとらわれることなく物事をあるがままに見る心、つまり松下が言う「素直な心」です。

「素直な心とは、私心なくくもりのない心というか、一つのことにとらわれずに、物事をあるがままに見ようとする心と言えるでしょう。そういう心からは、物事の実相をつかむ力も生まれてくるのではないかと思うのです。だから、素直な心というものは、真理をつかむ働きのある心だと思います。物事の真実を見きわめて、それに適応していく心だと思うのです」

 この素直な心で自分を見れば、どんな特質、適性があるのかを、適切につかむことができます。「なるほど自分にはこういう天分があるのだな。そうであれば、この分野で努力すれば思う存分、自分の力を発揮することができ、成功をおさめて幸せになれる」ということがわかってきます。つまり、素直な心になれば天分に生きることができるようになるというわけです。

松下の考え方によれば、この素直な心こそ、自分の人生を幸せに全うするための鍵です。あれが欲しいこれが欲しいと外にばかり目を奪われるのではなく、まずは素直な心で自分自身の内面を整えることに努める。そうすれば、きっと自分に合った幸せへの真の道も見えてくるのではないでしょうか。

 

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