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柳井正×松下正幸 国を超えて経営理念を実現し、新たな文化を創造

『衆知』編集部

2016年11月07日 公開 2024年12月16日 更新

 

「グローバルワン」の全員経営で世界の常識を変える

カジュアル衣料「ユニクロ」を中核として、アパレル市場を牽引するファーストリテイリング。グループを率いる柳井正氏は、経営理念をすべての起点に置き、「グローバルワン」(全員経営)を掲げて多様な事業を展開している。その中で、日本のみならず世界中の従業員に、どのように理念を浸透させ、継承させていこうとしているのか。そして、これからの成長戦略をどう描いているのか。グローバル時代に求められる経営者マインドと人材論とともに、両者が語り合った。

柳井 正(やない ただし)
ファーストリテイリング代表取締役会長兼社長。1949年生まれ。山口県宇部市出身。1971年早稲田大学政治経済学部卒。ジャスコ(現イオン)を経て、1972年父親の経営する小郡商事に入社。「ユニクロ」という店名でカジュアル小売業に進出。1991年社名をファーストリテイリングに変更。2002年、代表取締役会長兼最高経営責任者(CEO)に就任。

松下正幸(まつした まさゆき)
パナソニック副会長、PHP研究所会長。1945年生まれ。1968年慶應義塾大学経済学部卒。1968年松下電器産業入社後、海外留学。1996年に同社副社長就任。2000年から副会長。関西経済連合会の副会長を務める一方で、サッカーJリーグのガンバ大阪の取締役(非常勤)を務めるなど、文化・教育・スポーツの分野にも貢献する。

 

経営理念は会社にとっての「心」

松下 松下幸之助は、経営理念をなにより大事に考える人でした。柳井会長も経営理念を重視されているとうかがっています。ファーストリテイリングさんでは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というステートメント(企業理念)を掲げていらっしゃいますが、これはいつ頃、どのような考えで定められたのでしょうか。

柳井 これはユニクロがグローバルに打って出ようとした時につくりました。企業がグローバル進出を目指す時は、それぞれの国に新しい価値を持っていかなければならないと考えています。

今の日本人には、もうそのような感覚はないと思いますが、昔は「衣食住」といって服は重要な生活必需品とされていました。その「衣」の分野における「われわれは生活必需品としての最高の普段着を世界中の人々に提供しよう。今まであるような服ではなく、新しい価値を持った服を自分たちで創造していこう」という心意気を、この理念に込めました。

松下 世界のどの地域にも、どの時代にも通用する理念を意識されたということでしょうか。

柳井 そうですね。私は経営理念がない会社は、心がない会社だと思っています。何のために仕事をするのか、それを端的に表したものが経営理念です。英語で言えば「Mission(ミッション)」、日本語で言えば「使命」とも言い換えることができると思います。それを信じるところから、仕事を始めなければなりません。

松下 どの企業でも、すぐれた経営者は経営理念をしっかりと事業の中心に据えています。創業者が経営理念を打ち立てて、それを連綿と受け継いでいく。

しかし、代を重ねていきますと、継承していくための努力が必要になります。柳井会長はまだお元気ですので、今は必要ないと思いますが、将来を考えた時に、継承ということについて、どのようにお考えでしょうか。

柳井 私は根本的に古くならないものが経営理念だと思っています。確かに言葉の上では古くなりますが、創業者がその時に置かれている立場で発した言葉は、根源的なものだと思うのです。松下幸之助さんが今でも尊敬を集めていらっしゃるのは、経営理念や遺された言葉が古くなっていないからです。ですから、いい経営というものは、どの国に行っても、どの時代になっても変わらないと思います。

とはいえ、理念を後世まで伝えようと思ったら、宣教師のような人が必要です。これも宗教みたいなもので、経営者が打ち立てた理念を、宣教師役となった人たちが伝えていく。そういう体質をつくることが大事ではないでしょうか。

松下 後継者のみならず、役員や幹部の方々も一緒になって伝えていかなければなりませんね。

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「グローバルワン」は「社員稼業」に通じる

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