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唐池恒二×水戸岡鋭治 ななつ星in九州を生み出した「自分マーケティング」

『衆知』編集部

2016年12月14日 公開 2023年01月19日 更新

他者が見過ごすものを見過ごさない力

唐池 結局は、自分の経験や流儀を信じるということですね。私は鉄道会社にありながら、船舶事業、外食産業、まちづくり、最近では農業と様々な事業に携わってきていますが、やはりその都度迷うこともあります。「ここまでのことを自分が言ってもいいものか」「こんなことまで決断していいのか」と。

しかし、最近「自分マーケティング」というキーワードを胸に秘めるようになったんです。プロは、ある種の才能を持っていたり、ある段階に至っていれば、いわゆるビッグデータにもとづいてものをつくったりしません。己を頼んで、自身の感性や経験値、そして好みにもとづいたものづくりをし、そしてヒットを飛ばすんです。水戸岡さんはその典型ですし、ひょっとすると「ななつ星」で自分の仕事を守り続けた職人たちもそうだったかもしれませんね。

水戸岡 そして、唐池さんもそうですよね。そうじゃないと、あの凱旋門のスケッチは出てきません。

私の場合、何か1つ人と違うところがあるかと問われたら、おそらく色の常識のあり方なのだろうと思います。これまで視覚に収めてきた何千色という色から、素材や形、環境に合ったものを選び抜こうとする時、ほかのデータに頼ろうという気に全くなりません。瞬時に決める時はもちろん、迷っても、事務所の窓辺で、自分1人で何日も検証していたりします。

唐池 まさに「自分マーケティング」ですね。これが断行できる人に共通することは、吸収力の強さでしょう。言い換えれば、他者が見過ごすものを見過ごさない力。水戸岡さんは、普段から心の中に3枚のカードを持っているといつも言いますね。

水戸岡 私は心の中で、ブルー、イエロー、レッドの3色のカードを持っています。日本中、世界中どこのまちにいても、景観やデザインを見ながら、「これはOK!ブルー」「これはダメ!レッド」とやるわけです。

もっとも、折々で同行する妻には、この頻繁すぎるジャッジに、しばしばレッドカードを出されてしまいますが(笑)。

唐池 私も奥様の気持ちがわかる時がありますよ(笑)。冗談はさておき、私たちが「自分マーケティング」にもとづいた事業を続けるためには、当然ヒット、そして黒字が求められます。それは大変な道のりですが、やはりヒットしない、赤字という状況は誠に嫌なものですから、覚悟を持って臨むべきでしょう。

水戸岡 そうですね。一生懸命つくったからにはヒットさせたいと、いつもそう強く願っています。そういう「自分マーケティング」のできる人間が集まった集団が、優れたジャズバンドのようなヒットを奏でるのではないでしょうか。

唐池 水戸岡さんや私みたいな人間が何人もいる状況ですか? それはそれで、相当に大変そうですね(笑)。

※本記事はマネジメント誌『衆知』2016年9・10月号、特集「自分流を貫く」より、その一部を抜粋して掲載したものです。

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