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日本の国を守るために、自衛官のことをもっと知ってほしい

桜林美佐(防衛ジャーナリスト)

2017年05月30日 公開 2024年12月16日 更新

満たされない環境のなかでも死力を尽くす自衛官たち

東日本大震災発生後の自衛隊の活動についてまとめた拙著『日本に自衛隊がいてよかった』(産経新聞出版)は、想像以上に多くの方に読んでいただけた。

著者として嬉しいことではあったが、実は当初、この本を出版することに私は前向きではなかった。それは、国防を担う組織である自衛隊が災害派遣で活躍したことだけに注目するのは本意でなかったからだ。

しかし、その考えは近視眼的であることに、次第に気づくようになった。なぜなら、後日、諸外国からの自衛隊に対する評価を耳にしたとき、あの災害派遣での姿が、自衛隊の強さを見せつけることになったとわかったからだ。

自衛官が過酷な環境下で黙々と活動を行った当時の様子は、周辺国には「脅威」と映った。つまり、「この国には、国土や国民を守るために、自らやその家族が犠牲になっても献身する者がいる」と図らずも知らしめることになり、日本侵攻の意志を挫くことに繫がっているのである。

もちろん、当事者である自衛官もそこまでは考えなかっただろうし、私たち日本国民のなかにも自衛隊の活躍ぶりは当たり前のように思っている人もいるだろう。

日本国内ではそれほど知られていないかもしれないが、あの泥だらけの活動が持っていた抑止効果は極めて大きいと理解していいと思う。とりわけ、これまで海空に比べて全容が見え難かった陸軍種の実力も明らかになったことは、インパクトが大きいのである。

また、これもあまり知られていないが、退官した自衛隊OBの人々がボランティアで、でき得る様々な支援活動をしていたことなども、「日本の底力」が表に出たものだと言っていいだろう。

「自衛隊は戦えない」

このように言われることが、しばしばある。たしかに、そうなのだ。憲法に起因する法的な制約や、長年にわたる人員や予算削減の影響による人手不足、惨憺たる備蓄に個人装備……。とても他国に知らせられない現状も、多々ある。

だが一方で、自衛隊の能力は世界一だと言っても過言ではないと私は思う。その根拠は、満たされない環境の中でも死力を尽くす精神力である。そのすごさを、私たち日本人はほとんど知らないし、気がついてもいない。

彼らがどれほど無理をしているかを知らないので、憲法に起因する法の縛りを解消させることへの理解も得られない。個人携行品を自腹で買っている状況の改善のために、防衛費を増額する必要性も感じていない。さらには、人員を増やして休みがとれない環境を改めることも……。

政治の世界では、新しい法律をつくったり大きな装備の調達を決めたりすることのほうが目立つし、成果に繫がる印象を与えるが、実はこうした細々とした問題点を1つひとつ良くしていくことのほうがむしろ大事なのだ。

「防衛省も自衛隊も、何も言ってこないよ」と首をかしげる政治家もいる。そうなのだ。

この組織には「与えられた環境で最大限」という概念しかないので、不足を訴えることはまず、ない。逆説的に言えば、私たちは彼らの「できます」を、ある種の疑いを持って受け止める必要があるのだ。

誤解をされては困るが、「自衛隊が気の毒だから」、状況を改める必要性を訴えているのではない。日本の置かれる安全保障環境が日に日に厳しいものとなるなかで、これでは長期戦を戦えないからだ。

また日本には、南海トラフ地震や首都直下地震などの大規模災害がいつ起きてもおかしくないといった特殊な事情もあり、有事と災害派遣の複合事態なども起こり得る。自衛隊が常に無理をしている状態では、訓練もままならず、精強性を維持できない。

自衛隊の頑張りの受益者は私たち国民であり、また、自衛隊がよりいっそう頑張れるようにすることができるのも、私たち国民である。

 

※本記事は、桜林美佐著『自衛官の心意気』(PHP研究所)より、その一部を抜粋編集したものです。

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