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生産性の高いチームが、効率よりも大切にしていること

白河桃子(少子化ジャーナリスト、相模女子大学客員教授)

2017年09月15日 公開 2024年12月16日 更新


 

白河桃子(しらかわ・とうこ)
相模女子大学客員教授、少子化ジャーナリスト、作家。東京生まれ、慶應義塾大学文学部社会学専攻卒。住友商事、外資系金融などを経て著述業に。山田昌弘中央大学教授との共著『婚活時代』(ディスカヴァー携書)で婚活ブームを起こす。少子化対策、女性のキャリア・ライフデザイン、女性活躍推進、ダイバーシティ、働き方改革などをテーマに著作、講演活動を行なう一方、「働き方改革実現会議」「新たな少子化社会対策大綱策定のための検討会」などの委員として政府の政策策定に参画。著書に『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)など多数。

 

働き方改革は会社の魅力化プロジェクト

先日、全国の新聞社の経営トップが出席する会議で「働き方改革」について講演をさせていただいた。その後の経営者担当者会議にも出席したのだが、みなさんの表情がとても暗い。新聞社といえば、長時間労働が当たり前という業界。そこに、法的上限規制が入るということで拭いようのない「やらされ感」が漂っていた。しかし、何か改革をしないわけにはいかない。「実労働時間の把握ができない」ということや、慢性的な長時間労働による新聞社自体の「人材不足」、新聞配達員の不足など、経営者はさまざまな経営課題を抱えていた。

あまりに雰囲気が暗かったため、思わず「紙の新聞って毎日出ないといけないんでしょうか?」と発言したら、一瞬シーンとなってから、大爆笑。

空気も和み、意見も活発に出た。

同じように長時間労働が当たり前の業界は、みな「法律の抜け道」を探したり、「労基(労働基準局)がいつ来るか?」とびくびくしたりしているだろう。

「シュン」となっている感じがある。電通の知人も「社内がシュンとして元気がない」と言っていた。

今までの自分を「否定」されたと感じる人もいる。特に中間管理職だ。「長時間労働=仕事をがんばっている」と信じてきたのだから。確かに高度成長期やバブルの頃はそれが正しいやり方だった。ただ、時代は変化している。それも、ものすごい勢いで。

強い者が生き残るのではなく、変化に対応する者だけが生き残る時代なのだ。

「ただの時短だと思うからいけないんです。会社全体が、業界全体が、この会社で良かったと、プライドを持って仕事ができるようになる改革。それが働き方改革なんです」

そう言ったら、みなさんの目が違ってきた。

東京大学で人的資源開発を研究されている中原淳先生と対談したときに、先生も「時短ではなく、会社の魅力化プロジェクトととらえなくてはいけない」とおっしゃった。「魅力化」、良い響きだ。言葉はとても大事だ。

「時短」「残業代削減」ととらえると後ろ向きだ。働くほうも「どうせ、サービス残業が増えるだけ」「残業代が減るだけ」となる。「裁量労働」で抜け道を探そうという会社もあるだろう。しかし、それは会社の魅力を失わせ、社員のモチベーションを下げ、結果的には、会社を弱くするのではないだろうか。

前向きにとらえれば、今回の法改正は「変わるチャンス」である。働き方改革、特に労働時間改革は、劇薬であるだけに、成功した場合の効き目は抜群なのだ。働き方改革は「勝つための経営戦略」であって、「上から言われて嫌々やらされる時短」や「社員をしぼって業務効率をギリギリまで上げること」でもない。

会社をあげて変わるしかない。働き方改革実現会議の決定は、きっかけにすぎない。働き方改革元年に乗り遅れないようにしてほしい。
 

名経営者たちが続々と「働き方の変革」を宣言

「高度成長、規格大量生産、成果=時間のすべてが終わった。Change or Die(変わるか、さもなければ死ぬか)。変わらなければ負けるのではなく死ぬしかない」と言ったのは、ダイバーシティ経営の先駆者である松元晃カルビー会長兼CEOだ。

この「変わらなければいけない」覚悟を、さまざまな経営者が自分の言葉で表現している。長時間労働を是として出世してきた経営者であるはずの、カルビー松本会長をはじめ、2020年までに残業ゼロのために2000億円の投資を表明した日本電産の永守重信会長や、朝残業20時退社に取り組む伊藤忠商事の岡藤正広社長などが、「長時間労働」を否定していることも興味深い。

岡藤社長は以前「『イクメン、弁当男子』はなぜ出世できないか」(「プレジデント・オンライン」)という記事が炎上したことでもわかるように、商社のマッチョな体育会系カルチャーの経営者というイメージが強かった。しかしその経営者が「朝残業」を提唱し、「20時に帰れ」と言う。さらに「110運動」までやっている。「1次会は10時まで」という提唱だ。バブルの頃の伊藤忠の壮絶な飲み会カルチャーを知っている身としては、その転換ぶりには驚くばかりだ。その方向転換は近しい人に聞くと「仏教からキリスト教になったぐらいの変わりよう」で周囲も戸惑ったほどだという。導入三年での結果はといえば、2016年3月期決算で、財閥系を抜いて商社のトップに立った。純利益は前期40パーセント増の2127億円と独走。通期見通しでも3000億円の三菱商事に対して、伊藤忠商事は3300億円だった。

社員の時間外労働は朝残業に深夜と同じ割り増しを払うようにしても、20時以降の残業は30パーセントから5パーセントに減少、朝八時前の出社が45パーセント。時間外勤務時間が15パーセント削減され、朝残業代を払っても残業手当はおよそ10パーセントの削減となっている。伊藤忠はほかの商社よりも社員数が少ない。少人数でも高利益を上げる、生産性が高い働き方にシフトしているのだ。

一方、IT業界で働き方改革に成功している会社がSCSKだ。IT業界、特にシステムエンジニアは長時間労働体質の代表格だが、住友商事から来た中井戸信英氏(当時社長)が2011年から改革に着手し、残業しない分をボーナスとして社員に支給するという、当時としては斬新な試みで「ホワイト化」に成功。「内定を出しても、SCSKに学生を全部もっていかれる」というIT系人事担当者の嘆きが、その成功を物語っている。

中央大学ビジネススクールの佐藤博樹教授も「過去の自分を否定できるのは良い上司」と言っていた。このような経営者たちが何を求めて、労働時間に着目したのか?

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「時間」という資源が起こすイノベーション

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