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社会

何より恐ろしいのは北朝鮮の生物化学兵器を搭載したミサイルだ

日高義樹(ハドソン研究所首席研究員)

2018年02月23日 公開 2022年11月02日 更新

このことを北朝鮮のキム・ジョンウンが見ていないはずはない。朝鮮半島で偶発戦争が起き、戦いがエスカレートするなかで、在日米軍基地のアメリカ軍の活動を制約するため、北朝鮮が東京や大阪へサリンやVX神経ガスのミサイルを撃ち込んだとしても、アメリカが対抗策をとってくれるとは考えられない。

トランプ大統領が発表した新しい現実主義的な戦略に基づけば、アメリカの人々にとって、いまや遥かに遠く、小さな国になってしまっている日本を助けることはしない。

北朝鮮による攻撃について安倍政権は今頃になって「これまでとはまったく次元の違う対応策を考える」と言い始めている。しかしながら、安倍首相だけでなく、日本の多くの人々は「国際社会」と日本の人々が呼んでいる世界で、現実に東京に対する毒ガス攻撃が行われることを真剣には懸念していないように見受けられる。

トランプ大統領の新しい現実主義的戦略が、「世界は不法なジャングルである」という考え方に基づいていることはすでに触れたが、日本の人々の多くは依然として、国際社会と呼ぶ架空の世界共同体、コミュニティーが存在していると誤解している。

国際社会などというものは存在しない。規制する統一的な法律も、そしてその法を強制執行する警察組織もない状況のもとで、コミュニティーは存在しない。あるのは、不法な国際ジャングルだけである。

アメリカの力を妄信してきた第2次大戦後の日本の人々は、アメリカの力のもとにおける同盟体制を国際的なコミュニティーと誤解してしまった。しかし、アメリカの力は後退し、国際コミュニティーという存在自体が霧散してしまったなかで、北朝鮮のガスミサイルが日本を直撃しようとしている。そうした日本について、ヨーロッパやアメリカの投資家たちは「あまりにも遠く、あまりにも小さい存在として関わりを持ちたくない」と考えているのである。

ハーバード大学の歴史学の碩学、サミュエル・ハンティントン博士と次のような会話を交わしたことがある。ボストンの古い住宅地にあるイギリス風の彼の自宅の書斎でのことである。私がこう尋ねた。

「『文明の衝突』の著者としてアジアにおける日本の将来の立場をどうご覧になりますか」

ハンティントン博士はこう答えた。

「日本はユニークな立場にあります。本に書きましたが、世界の主な文明というのは8つ、ないし9つあります。日本はそのなかで、1つの国だけで文明が成り立っているという点でユニークです。日本では国と文明が一致します。ほかの国と文明的に結びついていません。アメリカは英語圏のイギリス、カナダ、オーストラリアなどと結びついています。この点で日本は孤独な国ですが、自由な立場にいられるとも言えます。過去数十年間、日本はうまくやってきたが、これからもそうした良い状態が続けばいいと思っています」

いま現実に起きようとしていることは、ハンティントン博士の見解とは関わりない。

我々が認識するべきは、アメリカの考え方が変化したことによって、日本とアメリカの友好関係に終止符が打たれようとしていることである。

我が国に迫る危機に対処しようとするときに、我々はまず現在の日本の置かれた立場を明確にし、そのうえで安全を維持するための具体的な対応策を立てなければならない。
 

※本記事は、日高義樹著『米朝「偶発」戦争』より、一部を抜粋編集したものです。

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