カイシャはどんどんプロジェクト化していく
これからの時代、プロジェクトのようなカイシャが増えてくると私は予想しています。やりたい事業が見つかったら、すぐに起業し、役割を終えたらすぐに解散するようなイメージです。インターネットのおかげで、人もお金もスピーディに集められる時代になりました。
人を惹きつける夢があって、共感する出資者がいて、そこに協力したいと思う仲間が集まってきて、新しいプロジェクトが立ち上がる。この瞬間はとても楽しい。
ところが、今のカイシャはどうでしょうか。夢は大体実現できたんだけど、この美味しいポジションを維持するためには、次にまた儲かることをやらなければならない。次はなにをしようか、と言い出します。
日本のカイシャはどんどん大きくなっていて、カイシャによっては何百億円、何千億円というお金が貯まっています。そしてそれを、ごく少数の人たちが勝手に動かせるようになっています。
私たちは誰のために働いているのでしょうか。いくら「カイシャのため」と言っても、実際にはそのトップにいる「経営者たちのため」に働いている。「自分はカイシャにこれだけの利益を出した」と言っても、その利益は最終的にカイシャの口座に入り、その口座のお金を使うのは経営者の人たちです。どこにどうお金を使うか、という分配の比率はこの人たちが決めています。
ですから、「カイシャのため」という言葉には危うさがあります。「自分は我が社のために一生懸命働いています」と言う人がいたら、私は反論します。「あなたが働いているのはカイシャのためじゃなくて、このカイシャの代表のためなんですよ。頑張って働いて利益を出すということは、経営者が使うお金を増やすことなんですよ」と。
つまり、よく見ておかないといけないのは、カイシャというモンスターのブランドやイメージではなく、生身の人間である代表取締役が本当に信頼できる人なのかどうか。そこを間違えると、知らぬ間に搾取されていたり、仕事が全然楽しくなかったりしてしまうわけです。
イケてない代表の下で偉くなっている人は、たいていイケてない
「でも、今の代表がイケてなくても、大きな企業であれば、代表は四年ぐらいで交代する。今のイケてない代表が、次はイケてる代表になる可能性もあるのでは?」と疑問に思う方もいるかもしれません。
しかし、「たいてい、次の代表を選ぶのは、今のイケてない代表」ということを忘れてはいけません。代表取締役という役職が怖いのは、「カイシャの資産を使う権利」を持っているだけではなく、「重要な役職に誰を就かせるかを決める人事権」も持っていることです。次の代表としてイケてる人を選んでくれるといいのですが、基本的にはそうならない。イケてない人は、自分にとって都合のいい人を選び、自分の利益を脅かす人を選ばないからです。
勤めている方には申し訳ありませんが、具体的に東芝というカイシャについて考えてみます。世の中の人の東芝に対するイメージは、老舗の国内電機メーカー、というところでしょう。東芝は長期間、不正会計を続けてきたことで話題になりました。「なぜ歴代の代表の中から、不正会計にメスを入れるような気骨のある人が出てこなかったのか?」と多くの方が疑問に感じたのではないでしょうか。イケてない代表は、次の代表にイケてない人を選ぶということを忘れてはいけません。
今の代表は、代表を外れても会長になり、そのうちしっかり退職金をもらって出て行きます。だから、後継には自分にとって都合のいい人を選びます。それは次の代表もそうです。そして、悲しいことに、こうした歴代の代表が、自分の下で働く執行役員や局長・部長を選ぶことになります。イケてない代表がイケてない部長を選び、その部長がイケてない課長を選ぶ、負の連鎖が発生します。
何十年もかけて偉くなったころには、時代遅れのオジサンに
そこであなたが「よし、このカイシャを何とかして変えたい」という立派な志を持っても、変える権力を手にするには「イケてない人に選ばれ続ける」という我慢を積み重ねていかないといけない。我慢レースの始まりです。
「残業しろ」と言われたら残業するし、「ゴルフに付き合え」と言われたら行くし、「転勤しろ」と言われたら、買ったばかりのマイホームを離れてでも転勤する。イケてない人の言うことを聞いて、認められて、ようやく一つ昇進する。
まさに我慢レースです。代表取締役まで上がると美味しいけれど、そこまでは我慢レースを耐え抜いていかないといけません。まともなことを言って変革しようと試みたりしようものなら、レースから外されてしまう。だから我慢し続けなければならない。
そして、昇進して権限が強くなったころには、もうとっくにあなたの全盛期は過ぎている。あなたの考えは時代遅れになり、若者たちの足を引っ張ることになる。
もちろん、カイシャにいる人が全員「イケてない」ということはないでしょうし、素敵な人も大勢いると思います。ただ、今のカイシャが楽しくないと思っているのであれば、自分がこうした我慢レースに入り込んでいないかどうか、少し距離を置いて考え直してみてもいいかもしれません。