「やらされ職場」はなぜ出現するのか? 魅力のない会社はさっさと潰そう
まず、第1回目の記事(4人に1人が辞める会社を経営して気づいたこと)と第2回目の記事(社長だから言える「ヤバい会社」の仕組み)の話を簡単に振り返ってみましょう。
日本のカイシャが楽しくないのは、「社員を我慢させる仕組み」で運営されているから。
その仕組みを作っているのは、カイシャの代理人である代表取締役。だから、カイシャを選ぶときは、この代表取締役がどんな人かを見ることが重要である。
簡単にまとめると、このような話をしてきました。
では、この「カイシャというモンスター」の見かけに惑わされないためには、どうすればいいのか。この連載の後半では、「理念」「売上」「利益」という3つのキーワードから、世間的に「いいカイシャ」と言われるカイシャが、「いいカイシャ」とは限らないことを見ていきたいと思います。
「売上を伸ばす」が目的になってしまっている日本のカイシャ
多くの学生は、大学三年生の終わりくらいから「そろそろ就職活動しなきゃ。どこにエントリーしようかな」と考えますよね。「こちらのほうが給料がいい」とか「こちらのほうが成長できそう」とか、就職のナビサイトに登録されているカイシャの中から、登録してある情報を見て選ぶことが多いのではないでしょうか。
でも、そもそもそのカイシャに「なぜ人が集まったのか」については、あまり考えようとしません。
そこになぜ人が集まったのか、なぜそのカイシャが生まれたのか。
ほとんどのカイシャでは、創業者の一人が「自分だけじゃできないけれど、やりたいことがある。だから仲間を集めよう」と言って、カイシャを作ります。
例えば一人で車を作って売ろうと思ってもできないから、カイシャを作る。メンバーを集めて、カイシャ名をつける。
それがまさに「カイシャができる瞬間」です。そして、日本のカイシャ法に沿って、カイシャを作る資料を提出して事業を進めていく。
だから、カイシャが作られたときは、元々はっきりした目的があったはずです。目的は「とびきり速い車を作ろうぜ」でもいいし、「安い車をたくさん売ろうぜ」でもいい。それが、時が経つうちに変わっていっても構いません。
ただ、カイシャの目的がないのであれば、そもそもカイシャに人が集まっている理由がないわけです。
「カイシャの目的」、それがいわゆる「企業理念」です。
ところが、その企業理念が実際にはあってないようなものだったりする。起業したときには、「こんな製品で、こんな人を喜ばせるぞ」と具体的だったのが、カイシャが大きくなるにつれて、当たり障りのない、ぼやけた企業理念になっていく。「社会を豊かにする」とか「よりよい社会を作る」とか「世界の発展に貢献する」とか。漠然としていますね。
さらに、カイシャが世間に知られるようになっていくと、経営者が周りの目を気にするようになり、いつの間にか目的が「売上を伸ばす」「利益を増やす」となって、「利益を増やしますから、代表をやらせてください」となってしまう。
こうなると企業理念を重んじることすらなくなります。企業理念に「お客様第一」と掲げていても、実際の現場では「今月のノルマ達成が一番大事だ」と、優先順位が入れ替わってしまうのです。
カイシャに人が集まる理由がなくなってきている
創業者がカイシャを作って、人を集めていったときには、おそらく魅力的な目的が、ビジョンが、理念があったのだろうと思います。それに共感した人が「私もそれに協力したい」と集まってくる。
例えばパナソニックの創業者、松下幸之助さんの経営哲学として有名な「水道哲学」があります。「電化製品を水道の水のように安くたくさん作って広げる」というものです。「それ、いいね」と共感した人が集まってきて、それが大きな力になって事業が広がっていく。
ところが、時代は変わりました。たいていの電化製品は安く買える。テレビも冷蔵庫も炊飯器も、生活に必要なものは普及した。だから、企業理念を、その時代や状況に合わせて変えていかなければならない。
カイシャの理念に人を惹きつける力がなくなっていったら、そこでリフレッシュしないと、カイシャに人が集まる目的がなくなってしまうのです。
もう少し、理念について考えます。最初にカイシャを作る人はどうやって理念を持ったのか。たいていの場合、社会にニーズを見つけ、それを満たしたいと考えるところから始まります。例えば「移動するのが困難な人を助けたい」とか「もっと斬新な味のお菓子を食べたい」とか、そういったものです。社会でまだ解決できていないニーズを見つけ、それを満たそうと理念を作り、カイシャを作る。
サイボウズの場合は、最初、「もっと安くて使いやすいグループウェアを作りたい」と思ったのがきっかけです。世の中にはすでにグループウェアがありましたが、動作が重いし、機能が複雑で使いにくかった。新しいインターネットの技術を使えば、もっと安くて誰でも使えるグループウェアが作れるんじゃないか。それが最初の理念です。
ただ、それは一人ではできない。開発したり、販売したり、サポートしたり、やるべきことがたくさんある。だから、仲間を集めて三人でスタートしました。やっているうちに、「それ、面白そう」「私もやりたい」と人が集まって、徐々に集団の規模が大きくなっていきました。
この状態のときは、理念がまだはっきりしており、楽しく仕事をしやすい状態にあります。自分の活動が、社会のどのニーズに応えているかの実感を得られるからです。ただ、当初の目的だった社会のニーズをあらかた埋めてしまったり、期待していたほど事業が伸びなかったりすると、なんとなく組織だけ、カイシャだけが残ってしまう。死ぬことのない妖怪「カイシャ」が、それまでに稼いだお金を口座に溜め込んだまま生き残った状態になる。