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一流の指導者に学んだこと~小久保裕紀・WBC2017侍ジャパン代表監督

マネジメント誌「衆知」―幸之助さんと私

2018年05月28日 公開 2024年12月16日 更新


 

小久保裕紀(WBC2017侍ジャパン代表監督・NHK解説者)
こくぼ・ひろき*1971年和歌山市生まれ。県立星林高校から青山学院大学を経て、1994年福岡ダイエーホークスに入団。1995年にホームラン王、1997年に打点王を獲得。2004年から読売ジャイアンツ、2007年から福岡ソフトバンクホークスで主力選手として活躍し、2012年に2000本安打を達成。同年、現役を引退し、2013年から2017年まで野球日本代表 侍ジャパン監督を務めた。

今回のゲストは、プロ野球選手として数々の栄冠に輝き、指導者としても日本代表チームの監督を務めた小久保裕紀さん。実は、松下幸之助の著作を数多く読み、その考え方を学んできたという。

聞き手:渡邊祐介(PHP研究所経営理念研究本部 本部次長)
構成:森末祐二
写真撮影:白岩貞昭
 

「怖さ」を知っているか

――小久保さんは大変な読書家で、松下幸之助の著書は何冊も読まれているそうですね。幸之助の教えで野球の世界と通じるとお感じになるところはありますか。

小久保 はい。同じ和歌山出身なので「郷土からこんな大先輩が出られたんだな」と思って、ご著書を何冊も読ませていただいていました。特に繰り返し読んだのが、『指導者の条件』(PHP研究所刊)です。ビジネスマンに限らず、スポーツ選手にもすごく参考になることが書かれているので、経営者のための本というより、「人間力の入門書」というのが、私の印象ですね。

例えば、「怖さを知らないといけない」という一節などは、本当にその通りだと思います。私の野球人生でみても、少年野球の頃から監督やコーチは怖い存在でした。でも、厳しく見てくれている人がいるからこそ、一所懸命練習に励むというものです。そもそも野球少年なんて、やんちゃな子ばっかりじゃないですか(笑)。「この人がいるから、しっかりやらないと」というように、「怖さ」を知っているかどうかで、身の入り方が全然違ってくるわけです。私が努力を重ね、プロの世界まで真っ直ぐ進むことができたのは、そういった怖い存在を持ち続けてきたからだと思います。

プロで活躍するようになると、ある程度自分の思い通りになるので、そういう怖い存在を遠ざけることも可能になります。でも、やっぱり本気で怒ったり、叱ったりしてくれる人がいないと、なかなかそれ以上成長するのは難しいでしょうね。引退した後に苦労している人も多いと思いますよ。

だから、松下幸之助さんの言葉を読み返すたびに、「実際その通りだな」と感じるわけです。ただ、今の時代は、「怖さ」がすぐに問題になってしまいます。これから育とうという人たちには、育ちにくい時代になったと感じますね。

――小久保さんにプロの世界で「怖さ」を与えてくれたのは、どなたですか。

小久保 私の師である王貞治さんです。私の入団2年目からホークスの監督を務められましたが、私が主力選手となってからも叱ってもらえたことは、今振り返ってみても野球人生を分けるポイントだったなと思います。あの時に本気で怒られていなかったら、たぶん勘違いしたままだったでしょう。

――どんなお叱りだったのですか。

小久保 ある試合で、私の守備のエラーが原因で負けたことがありました。それで試合後に記者から取材を受けた時に、「俺の守備は所詮こんなもん。どうにでも書いてください」と投げやりな発言をしてしまったのです。実は、数日前にもエラーをしてスポーツ新聞に大きく取り上げられたことから、記者の皆さんに敵愾心を抱いていたことも、投げやり発言をした一因でした。

その翌日です。私は王さんから監督室に呼ばれました。入るなり目に飛び込んできたのは、机の上に広げられたスポーツ新聞。王さんは、各紙に載った私のコメントを一つひとつ指差しながら、「お前は本当にこういう発言をしたのか!?」と問い質されたのです。

私が真実を伝えると、王さんの大きな叱声が飛んできました。「バカ野郎! こんな発言をしたら、ファンはお前から夢を買えないだろう!」と。

このひと言で、私はプロとしての己の未熟さを心から反省しました。外れた道を歩ませないように真剣に叱ってくれる王さんの想いを、本当にありがたく感じたからです。以来、インタビューで後ろ向きの発言は一切やめようと心に決め、その通りにしてきました。

――リーダーシップについては、どんな指導を受けられましたか。

小久保 学生時代でもプロでもキャプテンを経験させてもらいました。ですから、「どうすればチームにとってプラスになるか」という視点は、いつも持っていました。

特に印象に残っているのは、2年目でホームラン王になった時に、監督の王さんから「若い選手たちが見ているから、しっかり背中で手本を示せるプレイヤーになれ」と言われたことです。「若い選手たちにって言われても、自分もまだ24歳で若いんやけど……」というのが、当時の率直な気持ちでしたけど(笑)。

でも監督からすれば、やはり精神的支柱となる主力選手の存在は、非常に大きい。これはのちに自分が監督となって実感したことです。

主力選手なのに、自分の機嫌がプレーに出てしまったり、隙を見せたりすると、チームの士気に大きくかかわります。若いうちから、そういったリーダーシップの意識づけをしてもらえていたのだと思います。
 

※本記事は、マネジメント誌「衆知」2018年1・2月号特集「若い力を育てる」より、一部を抜粋したものです。

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