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天草エアラインの危機を救った「合い言葉」

河合薫(健康社会学者/気象予報士)

2018年10月18日 公開 2019年04月03日 更新

破れたストッキングとタイヤ止めのくまモン 合言葉が生み出した「共感」

奥島氏のしつこさに、やがて社員たちは「天草らしさ」をマジメに考え始めます。その戦陣を切ったのが客室部CAの40代の女性です。

実は彼女、新社長が来る前の危機的状況のとき、社内に漂うどんよりした空気をどうにかしたくて、ちょっとした”サービス”を試みていました。

「みなさま、本日、都合により私のストッキングが破れておりますが、どうか気になさらないようにお願いいたします!」

こうアナウンスしたのです。
彼女の奇妙な機内アナウンスにお客さんたちは大笑い。天草エアラインの小さな機内は温かい笑いに包まれました。

そこでこの様子を社内報に載せたところ、上司からこっぴどく叱られてしまったのです。「CAとしてあるまじき行為だ!」と。

「新社長ならわかってくれるかもしれない」
そう考えた彼女は、その”サービス”を書いた社内報を奥島社長に見せます。

すると社長は、「アッハハ、おもしろい。いいじゃないか!」と笑い転げ、「天草らしいね」と彼女を労(ねぎら)った。気取らない、隣のお姉さん的サービスこそが”天草らしさ”であると認めてくれたのです。

そこで彼女は”隣のお姉さん”的サービスを他のCAにも広げ、今ではそれを目当てにたくさんのお客さんがやってくるようになった。天草エアラインの最大のウリになっていったのです。

CAに負けじと”天草らしさ”を発揮したのが、整備士さんです。
「ここにくまモンを描いたらどうだろう?」

タイヤ止めはとてもとても小さくて、決して目立つわけじゃない。タイヤ止めの存在さえ知らない人もいるかもしれない。
でも、タイヤ止めはプロペラ機にとって必需品で、整備士さんたちにとっては”命”でもある。そこで大切な黄色いタイヤ止めの両側に、整備士さんたちは”くまモン=天草らしさ”を吹き込みました。

元気な会社で働く人たちは、自分がその会社の一員であることに誇りをもっています。ラジオマンとしての誇りや天草らしさなど、自分たちが大切にすべきことへの努力を惜しまず、楽しんで知恵を出し合っている。そして、互いにそれを認め合う温かさが存在するのです。

あなたの会社が大切にしていることはなんですか?
あなたは何を思い、仕事をしていますか?
そして、なぜ、あなたは、その会社にいるのですか?

もしあなたの職場に「合い言葉」がなければ”あなた”が発信者になればいい。そして、周りと意見し合えばいい。学び合えばいい。助け合えばいい。目指すは学んだこと、習得したことを発揮するチャンスがある職場であり、会話がある職場です。

そして、そうした職場では「共感」が生まれてゆくのです。

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