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生き方

まず強く願うこと~松下幸之助 心を強くするヒント

大江弘(PHP研究所社会活動部長)

2019年01月01日 公開 2024年12月16日 更新

「ちょっと注意されただけで気持ちが落ち込む」
「人間関係が少々うまくいかないだけで苛立ち、引きこもる」
「物事が思う通りならないとすぐに投げ出す」
「困難にぶつかると途端にやる気がなくなり、頑張ろうという勇気も失せて挫折する」

いつも元気で楽しく過ごすのはなかなか難しいものです。むしろ自分の心の弱さを痛感させられる、そうしたあまり好ましくない体験のほうが多いように思えます。

困難や嫌なことにくじけず、元気に歩み続け、ついには成功、幸せを得るには、やはり容易なことではゆるがない強い心が必要です。またそうした強さがあればこそ、たとえ打ち倒されることがあっても、力を振り絞って再び立ち上がれるのです。もっと強い心になりたいというのは、多くの人に共通した願いだと言えます。

それでは、どうすればそうした強い心を得ることができるのでしょう。パナソニックの創業者であり、著作を通じ多くの人を励まし続けた松下幸之助のものの見方、考え方から、心を強くするためのヒントをみてゆきたいと思います。
 

まず強く願うこと

強い心を得るには、平常心や忍耐力、不屈の闘志、信念、勇気等を身に付けることが重要です。具体的な例としては、スポーツ選手のような日々の鍛練、メンタルトレーニング、あるいは僧侶のような厳しい修行などが考えられます。しかし、「それができたら苦労はない。そもそもそうしたことができないから困っているんだ」という人が多いのではないでしょうか。

ある講演会でのことです。松下幸之助は、熱心に「ダム経営」の大切さを訴えました。ダム経営とは、日頃から水を蓄え、必要に応じて水を供給するダムのように、経営においても不測の事態に対処できるよう資金、設備、技術や人材など、あらゆる面にゆとりを持たねばならないという考え方です。

質疑の時間になったとき、一人の経営者が質問をしました。

「私もダム経営に感銘を受けた。しかしいま余裕がないのを、どうすれば余裕ができるのか、それを教えて欲しい」

すると松下は少し考えてから答えました。

「そんな方法は私も知りませんのや。知りませんけれども、余裕がなけりゃいかんと思わないけませんな」

もっと具体的な方法を期待していたのでしょう。この答えに聴衆はざわめきます。

しかしその答えに深い感銘を受けた経営者がいました。創業まもないころの京セラの稲盛和夫氏です。稲盛氏は後に、次のように語っています。

「そのときわたしはほんとうにガツーンと感じたのです。余裕のない中小企業の時代から“余裕のある経営をしたい”“オレはこういう経営をしたい”と、ものすごく強い願望をもって毎日毎日一歩一歩あるくと、何年かの後には必ずそうなる。“やろうと思ったってできやせんのや。なにか簡単な方法を教えてくれ”というふうな、そういうなまはんかな考えでは、事業経営はできない。

“できる、できない”ではなしに、まず、“そうでありたい。オレは経営をこうしよう”という強い願望を胸に持つことが大切だ、そのことを松下さんは、言っておられるんだ。そう感じた時、非常に感動しましてね」(『経営静談』)

これは経営に限った話ではありません。心の強さを養うことにおいても言えることです。誰かが何とかしてくれる、簡単に強くなれる方法を知りたいと安易に考えているようでは、依存心が高まるばかりです。とても自立した強い心がもてるはずはないでしょう。

まず強い心を養いたいと真剣に熱心に願うこと。願わずしては何事もなしえません。お互い、強い心をもちたいとほんとうに心の底から願っているでしょうか。折々によく省みたいものです。
 

自分で自分を励ます

「英雄豪傑というと、何だか鋼鉄のような強い心の持ち主ばかりのように思えるが、必ずしもそうではないと思う。たとえばあの西郷隆盛でも、一時は前途に絶望して、僧月照と相擁して海中に身を投げ自殺をはかっている。またキューバ危機の際のケネディ大統領もああした大胆な決断を下すまでには非常に苦悩したと伝えられている。事にあたり、不安を感じ、動揺することはあっていいのである。むしろそれが人間としてふつうの姿である。ただ、そこから自分で自分を励まし、勇気を奮い起こすということが、指導者にとってきわめて大切なのだと思う」(『指導者の条件』)

何があっても動じない、悩まない、苦しまない、たしかにそれは強い心と言えます。また誰しもそうした心の強さにあこがれを持っているように思えます。しかし、いつでも、どこでもそうした強い心を保つということは容易ではありません。そもそも人間は、事にあたって悩んだり失望したりするものではないでしょうか。

どれほど強い心の持ち主でも、ときと場合によってはくじけてしまうことがあるはずです。神ならぬ身の人間である以上、つらいときはつらい、苦しいときは苦しいと感じ、どうすればよいのか判断に悩む。それにもかかわらず、つらいのにつらくないふりをする、悩んでいるのに悩みなどないふりをする、そのように自らを誤魔化し、無理をしたのではかえって自分自身を苦しめるばかりです。自分を一層追い詰めることにもなって、心がぽっきりと折れかねません。

そこで松下は次のような提案をします。

「私は、悩みが一つくらいあってもいいのではないかと思っている。むしろ悩みが一つあるということは、人間にとって大事なことではないかと考えている。これは、別に無理にそう考えているのではない。無理にそう考えても、自分が苦しむだけである。私はほんとうにそう考えている。なぜかというと、常に何か気にかかる一つのことがあれば、それがあるために大きな過ちがなくなる。注意深くなるからである。心がいつも活動しているから、油断しない心になるのである。反対に、何も悩みがなく、喜びのままにやっていくという姿では、そこにおのずとゆるみが出る。そのゆるみが、過ちにつながり、結局マイナスをもたらしかねない」(『松下幸之助 リーダーの言葉』)

不安を感じてもいい。動揺し、悩んだってよいのです。あるがままの自分に目をつむるのではなく、むしろしっかりと見つめ、容認する。たとえ弱い自分であっても、しっかりと受け止める。その上で、自分自身を励まし、勇気づけ、よく言い聞かせて、再び立ち上がって歩きはじめるように促す。七転び八起きという言葉がありますが、それができてこそほんとうに強い心ではないかと思います。

そのために大切になるのが自分を鼓舞することです。松下は、自分で自分を励まそうと言っています。そうした姿勢こそが、私たちの心を少しずつ強く変えてくれるのではないでしょうか。

 

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