1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 女性と男性の活躍推進―ワークとライフの好循環が企業の活力を生み出す

仕事

女性と男性の活躍推進―ワークとライフの好循環が企業の活力を生み出す

マネジメント誌「衆知」

2019年02月13日 公開 2019年03月01日 更新

産休・育休などの諸制度だけでは、女性活躍は実現されない。時間的制約を前提とした働き方、その中での成果を評価する仕組み、生活を充実させて得た経験を仕事に活かす取り組み。そうした生産的な「ワーク」と豊かな「ライフ」の好循環をいかにつくり出すかが問われる。それは経営戦略としてとらえるべき課題であり、今後、男性社員にも大きくかかわってくるという。数々の企業の現場で働き方改革に取り組む大塚氏に、その考え方と実践をうかがう。

 

大塚万紀子
株式会社 ワーク・ライフバランス パートナーコンサルタント
おおつか・まきこ*2003年中央大学大学院法学研究科卒業後、大手IT企業に入社。2006年株式会社ワーク・ライフバランス設立に創業メンバーとして参画。日本的経営のよさを活かしながら、多様な人材の活躍により生産性を高める経営戦略として、ワーク・ライフバランスを実現する施策を数多くの企業や行政組織に提案・推進している。現在、時短勤務で子育てとの両立を実践中。金沢工業大学大学院客員教授も務める。

取材・構成:坂田博史

 

指導的地位の女性がなかなか増えない理由

2016年4月にいわゆる「女性活躍推進法」が施行され、女性のキャリア形成に対する経営者の意識は非常に上がりました。私たちのお客様の企業でも、女性活躍関連の指標が目標に対してどういう進捗状況にあるかをしっかり把握されている経営者が多くなったと実感しています。

特に重要な変化は、単に女性を増やすという視点にとどまらず、多様性の充実のためのファーストステップとして登用していく、という企業が増えてきていることです。まさに、これまでになかったアイデアや感性を組織の力に変えようとしている経営者が増えているのは大変心強いことです。

ただ、進捗のスピード感はやや物足りないというのが正直なところで、特に女性の経営幹部は、どこもまだ少数です。

実はここが重要で、社員の人たちは経営者が思っている以上に、自社の経営層に多様性があるかどうかをよく見ています。ですから、現場での女性活躍を推し進めたいなら、まずは経営層でそれを実践して、社員に見せることが必要なのです。女性幹部の数を増やすことは、社員への明確な意思表示となります。

しかし、その際によくありがちなのが、女性役員がいないので、とりあえず一人だけ女性を役員にしようとするやり方です。実際のところ、それではほとんど意味がありません。

なぜなら、役員が十数名いる場合にそのうち一人だけ女性にしても、残りはみんな男性ですから、その女性役員が多様性を発揮する前に居づらくなってしまう、あるいは女性役員の思考が男性化してしまうからです。

一般的に、多様性のある集団を育てるには、最低でもメンバーの3割を別の属性やタイプの人と入れ替える必要があるという研究結果があります。ですから、役員に女性を増やすなら、一人ずつ増やしていくのではなく、一気に数名を増やすぐらいで行なわなければ、彼女たちが多様性をもたらすことは期待できないのです。

これまで政府目標においても、「2020年までに指導的地位の女性を30パーセントに」と掲げられてきましたが、最近になって「2030年までに」と目標の時期が変更になったところからも、女性リーダーを育成することの難しさがうかがえます。指導的地位の女性が増えない理由はほかでもなく、企業がいまだに「転勤・出張・残業」を前提とした男社会であるからです。「そんな男社会で、男性化しながら働くなんて滅相もない」というのが女性たちの本音なのです。

賢い女性たちは、上からも下からもいろいろ言われて板挟みになりながら、長時間労働を余儀なくされている上司の姿を見て、「そんな立場には絶対になりたくない」と思っています。長時間労働にメスを入れ、短い時間で成果を出す人が評価される環境に変えなければ、優秀な女性であっても「自分は長時間労働ができないので無理です」と昇進を断るしかなく、ロールモデル(模範となる人)も生まれないでしょう。

また、その人に期待している役割をしっかり言語化して伝えることも大切です。「課長」「部長」といった役職の名称ではなく、仕事の内容や職責の幅に可能性を感じる人が、今後男女問わず増えていくでしょう。登用を打診する経営側の戦略が肝要です。

今、女性活躍が目標として掲げられているのは、男性にはない、女性ならではのアイデアや能力をイノベーションにつなげ、企業の成長や社会への貢献をもたらすためです。単にジェンダーの問題としてではなく、日本の企業が活力を取り戻すための経営戦略としてとらえるべき課題なのです。
 

深夜労働86パーセント減 女性社員の出産数1・8倍

女性活躍が進んでいる企業の例として、2012年から「スマートワーク」(以下、スマワク)という働き方改革を行なっている人材派遣会社「リクルートスタッフィング」の取り組みをご紹介しましょう。

「限られた時間の中で、賢く・濃く・イキイキと働く」をスローガンとして始められたスマワクは、社員一人ひとりがより生産性の高い働き方を実現し、新たな価値を創出する時間を生み出すことを目標としています。そのために様々な経営改革が全社的に行なわれていますが、なかでも重要なのは、評価軸の変更でした。

これまで日本企業の多くは、残業もいとわず長時間働いてくれる人を「頑張っている」と評価してきました。より大きい成果を得るためには、より長い時間働く必要があるという考え方があったからです。

しかし、本来、同じ成果であれば、残業せずに短い時間でできるほうがいいはずです。そこで、スマワクでは、評価軸を時間あたりの生産性に変え、労働時間がある一定時間を超えた人は一切評価しないと決めました。誰もが限られた労働時間内で成果を上げるよう求められたのです。

すると、それまで各部署で「エース」と呼ばれていた人たちが、こぞって短時間勤務の優秀な女性社員たちのところに赴き、労働時間短縮のノウハウを教えてもらうようになりました。そして仕事のやり方を見直したり、ワークフローを変えたり、書類の削減を行なったりと、各部署で短時間労働が実現できるように、細かく働き方を改善していったのです。

労働時間が短縮されるにつれて、社員には充実した生活を送るための時間が増えていきます。家族と過ごす以外にも、趣味の幅を広げたり、大学院やビジネススクールに通ったりする人が増え、やがて、そこで得た知識や人脈を仕事に活かして成果を上げる好循環ができてきました。

つまり、新たに生み出した「ライフ」の時間で自己研鑽を行ない、そのインプットを「ワーク」で活用するシナジー(相乗効果)が生まれ始めたのです。

スマワクの取り組みの結果、深夜労働をする人は86パーセントも減り、休日労働は68パーセント減少しました。3年連続で労働時間が減る一方で、時間あたりの売上は伸びています。また、自己研鑽する人は1・6倍になりました。

そして、女性活躍も促進されました。女性社員の出産数は1・8倍になる一方で、それでも出産して辞めた人はゼロでした。それまでも出産後も働く人が多い職場でしたが、さらに活躍のイメージが持てる人が増え、現在、女性管理職は四割以上にまで増えています。

日本の産業界に働き方改革の推進を呼びかけている政府が望んでいるのは、まさにこのような改革かと思いますが、それは一社からでも十分実現可能なことなのです。経営者は会社を背負っているのと同時に、社会におけるミッションにも協力すべき立場にあるはずですから、その両方のために、これからどのような働き方を評価し、マネジメントすべきかが、各企業の経営者に問われているのではないでしょうか。

※本稿は、マネジメント誌「衆知」2018年9・10月号特集「これからの『働き方』マネジメント」より、一部を抜粋編集したものです。

関連記事

アクセスランキングRanking