大事なことは、ふさわしい演出で語る
リーダーが部下に向かって旗を振る際には、それにふさわしい場を設定したうえでメッセージを発信することが大切です。
私の場合、旗を振る場所としてもっとも重視したのは、年明けの仕事初めの日に毎年おこなっていた年頭の挨拶でした。今後1年間のチームの方針をA4サイズ1枚の文章にまとめて部下に配り、話していたのです。
すると部下は「今日は佐々木さんが大切な話をするぞ」と、みんな真剣な表情で聞いてくれます。
もし私が同じ内容の話を普段のミーティングの場で話したとしたら、緊張感がないため聞き流してしまう部下も出てきたでしょう。しかし、このときだけは、みんなひと言も漏らさず聞き取ろうとします。そのぶん自分が発したメッセージが部下に浸透しやすくなるのです。
また年頭の挨拶のような定期的な場以外にも、チームが何か大きな問題に直面し、迷走状態に陥りそうになったときには、やはりリーダーはメンバーを集めてメッセージを発信する場を設定する必要があります。
そのときには「これからチームの将来にかかわる大切な話をするから、みんなちゃんと聞いてほしい」という前振りをしたうえで、話し始めることが大切です。
重要な言葉は、発するにふさわしい場所で発せられてこそ、部下を動かす説得力のある言葉になるのです。
要領を得ない男性、高飛車な女性の話し方
「文は人なり」という言葉があります。文章を読めば、その人物の人となりがわかるという意味ですが、私はまた「話し方は人なり」であるとも思っています。話し方を聞けば、その人の普段の仕事ぶりが、だいたい想像できるものだからです。
ある企業の講演会に講師として呼ばれたときのことでした。
30代半ばぐらいの男性が司会進行を務めていたのですが、その男性の話しぶりがまことに要領を得ないものだったのです。話の道筋が整理されておらず、何が言いたいのかまったく理解できませんでした。
「きっとこの人は、普段の仕事でも物事を論理的に考え、部下に的確な指示を与えることができない人なんだろうな」という印象を私は抱きました。
一方で別の企業の講演会に呼ばれたときには、40代半ばぐらいの管理職の女性が司会進行を務めていました。この人の話し方は理路整然としていて、進行役としての仕切り方も抜群にうまい。
しかし、この女性の話し方は、とにかく高飛車でした。
「これから佐々木先生は大切な話をするから、みなさんちゃんと聞きなさいよ。そして自分たちの仕事の改善のヒントにしなさい」といった話し方をするのです。こうした話し方をされれば、話している内容そのものは正論だったとしても、誰だって反感を抱くでしょう。
「おそらく、この人は個人としては仕事ができる人なのだろう。でもリーダーとしては問題があるな」という印象を私は持ちました。
きっと職場でも高圧的な態度が原因で、部下との間で軋轢が生じることが多いのではないでしょうか。