「デジタルは若者のもの」は日本だけ? ”学ばない中高年がエラい”会社の危うさ
2019年05月15日 公開 2019年05月16日 更新
<<耳が痛いほどに聞かされる「社会は恐ろしいスピードで変化している。個人も変革すべき」のような話。ただ、そう言っている人も本当に「では、どう変化すべきなのか」を理解しているのだろうか?
将来に対して不安を抱いていたり、現状に不遇感を覚える人たちが急増する日本の状況で、理論社会学者の鈴木謙介氏は、著書『未来を生きるスキル』を発刊した。
同書は鈴木氏が、未来に向けてどうあるべきかを大学教育の現場の状況を踏まえながら提言している「希望論」である。ここではその一節を紹介する。>>
日本人はスピーディーな変化を拒みがち
近年注目を集めている行動経済学の研究によると、「損失が発生していない状況では、人はリスク回避的な行動を取る」(プロスペクト理論)とされています。
たとえば、転職したほうが良い仕事に就ける期待があっても、現状に不満がなければわざわざ転職はしない。リストラなどの明確な危機が迫っていない状況では、「これからの就業構造の変化に対応しよう」と言われても、そう簡単に動かないのが人というものです。
こうした人間の行動傾向に加えて、変化を嫌う日本社会の気質みたいなものも関係しているのではと僕は思います。たとえば、AIが猛烈なスピードで進化し、就業構造もますます変わっていくような危機を感じたとき、人々はどういう感想を抱くでしょうか。
「なんだか怖い」
「さりとて自分たちまでは大丈夫なんじゃないか」
そんな風に思うのではないでしょうか。つまり人々の傾向として、新しいスキルを身に付けるよりも、スピーディーに変化することを拒む可能性のほうが高い。
『未来を生きるスキル』に、日本はICTの導入が先進国で最低レベルと書きましたが、その大きな理由のひとつは「導入された技術に人間のスキルが追いついていないから」です。
たとえば、最新のパソコンやAIで分析できるソフトを導入するような投資は行っているものの、肝心の人材の教育、特に中高年社員の再教育が追いついていません。
「俺、パソコンとかデジタルとか分かんないんだよね」なんて言っているおじさんが、みなさんの会社にもいるのではありませんか?
そんなおじさんのあずかり知らぬところで技術は日々変化し、最近ではSlackなどのチームコミュニケーションツールによって、もはや会社にいる意味すらもなくなりつつある。
それなのに、会議室の予約を部下にやらせたり、「俺デジタル苦手だからさ」と堂々と言って許されたりするような、変化を経験していない人がたくさんいます。
でも、このように新しいものは若い世代が慣れて使えばいいし、上の世代は追いつかなくても構わないと考えていると、組織全体が最先端の技術に最適化しません。
そうして、ICTの導入が遅れるわけですが、これはむしろ速いスピードで変化することを嫌う気持ちの表れだととらえることもできます。
もちろん、日本だけがそうなのかと言えば、一概には言えない面もあります。アメリカや北欧諸国のようなテクノロジー先進国とされる国でも、一部の企業が成功しているように見えているだけで、ほかの多くの企業はある日突然に変わったわけではないでしょう。
ただ、それでも日本よりICT普及が早いのは明らかです。たとえば、ソーシャルメディアの利用率で見ても、年齢が上がるほどソーシャルメディアの利用率が下がる傾向が、日本で特に顕著です。
言い換えると「インターネットは若者のメディア」という考え方は、日本でしか通用しない「常識」ということになります。特に中高年を中心に、新しい技術に適応して自らが変わらなければいけないという意識があまりないのです。
このようなICT導入の遅れのような現象を考慮せず、「AIで失業者が増える」と騒いだとしても、どこか他人事のようです。
いま日本が心配しなければならないのは、技術が急に変化して仕事がなくなることよりも、急に変化することが嫌で変われないという、もっと手前のことなのです。