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アイヒマン化する会社員…「思考をやめた人」ばかりが生き残る日本企業の“危うさ”

片田珠美(精神科医)

2019年07月23日 公開 2024年12月16日 更新

世の中には必ずしも悪人というわけではないのに、結果的に悪をなす凡人がいる。そして厄介なことに、この手の凡人は時として途方もなく大きな悪に加担する。あなたの近くにもいるのではないだろうか。

その典型が、ナチス親衛隊の中佐で、ユダヤ人を強制収容所や絶滅収容所に移送し、管理する部門で実務を取り仕切っていたアドルフ・アイヒマンである。彼は責任者のひとりとして数多くのユダヤ人をガス室に送った。彼の指揮下で逮捕されたあげく、収容所で殺されたユダヤ人は数百万人にのぼるといわれている。

戦後エルサレムの法廷で行われた公開裁判を取材したのが、女性の政治哲学者、ハンナ・アーレントである。アーレントは、アイヒマンが多くの人が想像していた「いかにも悪人」という人物ではなく、「ごく平凡なドイツ人」であったことに強い衝撃を受けたという。そんな凡庸な人物が中小企業を潰す原因になりかねないと片田珠美氏は著書『怖い凡人』で警告する。

※本書は片田珠美著『怖い凡人』(ワニブックスPLUS新書)より一部抜粋・編集したものです

 

日本の入試制度が生みだした〈思考すること〉ができない人間

アーレントは、「アイヒマンは愚鈍なのではなく、奇妙なほどにまったく〈思考すること〉ができないのでした」と述べている(「思考と道徳の問題─W・H・オーデンに捧げる」『責任と判断』所収)。

〈思考すること〉ができないからこそ、自分のやっていることがどういう事態をもたらすかに考えが及ばず、良心の呵責も罪悪感もなしにあれだけの悪をやってのけたのだとすれば、腑に落ちる。

「〈思考すること〉ができない人間なんて本当にいるのか?」と疑問に思われるかもしれないが、実際にいる。しかも、学歴はあまり関係ない。たとえ高学歴でも、〈思考すること〉ができず、思考停止に陥って、どんな不正でも淡々とやってのける人はいくらでもいる。

とくに日本の入試制度では、主に記憶力と情報処理能力(速さと正確さ)を見るので、丸暗記してしまえば、思考力がなくてもかなり偏差値の高い大学に入ることができる。だから、一見いい大学、いい会社のエリートコースを歩んでいるようでも、〈思考すること〉ができない人は少なくない。

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こうして〈思考すること〉を人はやめていく

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