千の悩みも悩めるのは一つだけ?~松下幸之助 心軽やかに生きるコツ
2020年01月28日 公開 2022年10月05日 更新
千の悩みも悩めるのは一つだけ
悩み事は一つだけとは限りません。仕事のこと、人間関係のこと、家族のこと、社会のこと、環境や世界のこと……。数え上げればきりがないほど悩み種はあります。またそれらには重いものからちょっと心配という程度のまで、いろんなレベルがあるでしょう。そうした悩みや悩みの種が次々と頭に浮かべば、人はどうしたって苛立ち、混乱し、心は重く沈み込んでしまうことになります。
松下幸之助は悩みについて次のようにも述べています。
「私の悩みは多い。悩むことは百も千もある。しかし、百の悩みがあっても千の悩みがあっても、結局その悩みは一つである、ということである。私はそう考えた。そう考えたというより、実際いってそうである。千の悩みをもっているから非常につらいということではなく、本当に悩んでいることはつねに一つである」
飛鳥時代の皇族・政治家であり、日本の国にとって重要な業績を残した聖徳太子には、実にさまざまなエピソードがあります。その中の一つに、何人もの人の話を同時に聞き分け、理解し、適切に判断、指示することができたという逸話が残されています。事の真偽はわかりませんが、とても私たちには真似ができないでしょう。私たちが一度にできるのは、たいてい一つのことだけです。一つの話を聞き、一つのことについて考え、一つの判断をすることだと思います。脳の中で無意識にはいろいろな活動をしているとしても、意識して考えることができるのは、やはり一つだけでしょう。
このことは悩みについても同じです。たいへん多くの悩み事があっても、悩み考えることができるのは一度に一つだけです。仕事のことで悩んでいるときには、家庭や学校、社会などに関わる悩みや心配事が意識に上ることはありません。“そんなことはない、一度にたくさんの悩みが心を占めるのだ”という人もいるかもしれませんが、それは瞬間、瞬間に悩み事がフラッシュカードのように次々と脳裏に浮かんでいるだけではないかと考えられます。結局、私たちが悩むことができるのは一度に一つだけ。つまりその瞬間を見れば、悩みは一つしかないというわけです。
この松下幸之助の考え方は、悩みがたくさんあると嘆いている人に対する慰めというだけではないにちがいありません。見方を変えるなら、落ち着いて一つに集中して考え、解決の道を求めることが大事であり、たくさんの悩み事に振り回されていたのでは決して新たな道は切りひらけないという、悩み方のヒントを示していると言えるのではないでしょうか。
松下幸之助は神経質な性質で、何かを気にしだしたら心配のあまり眠ることができなくなったそうです。これは“考えて、考えて、考え抜く”という松下の成功を支えた行き方にもつながっています。しかしそれも度を過ぎれば健康を害することにもなりかねません。そこで松下が、人に説くと同時に自分自身に言い聞かせていたのが、この“千の悩みも悩むことができるのは一つだけ”というメッセージではないかと思います。
「ここに一つのちょっとしたできものができたとする。そのできものが非常に気になる。けれども、今度、おなかの一部に大きなできものができたとなると、この小さいできものはもう忘れてしまいます。今度は大きなほうが気にかかる。そういうように、悩みというものは、一つに集結するものだ。百の悩みをもっていても、結局、悩むものは一つである。いちばん大きなものに悩みをもつんだ。そういうものだと思うのです」
松下幸之助はできもので喩えていますが、私たちが悩むのは一番大きなもの、重要なものだと指摘しています。そうであれば、ただ目の前にある重要な悩み事を解決するべく、一つずつ全力を尽くしていけばよいということにもなります。
悩み事がたくさんあるからといって心を重く暗くすることはありません。お互いにしっかりと自分の悩みと向き合い、落ち着いて地道に歩んでいくことが大切なのではないでしょうか。
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