“親のいない動物”を救う「代用乳」の力
2020年01月31日 公開 2024年12月16日 更新
動物園や水族館では、ストレスなどでお母さんが子育てを放棄してしまうことがあるといいます。残された子どもの成長を助ける上で欠かせないのが「代用乳」です。オーストラリアでは、交通事故で死んでしまったカンガルーやワラビーのお母さんの袋から、生きている子どもを保護して代用乳で育てる心優しい人たちもいるといいます。
代用乳のニーズは高く、さまざまな場面で活用が期待される一方、生産を可能にするためには克服すべき課題も残っている。そう話すのは、帯広畜産大学教授の浦島匡氏です。
浦島氏をはじめとする生物学者たちがあらゆる角度からおっぱいの謎にせまる著書『おっぱいの進化史』より、時には動物の子どもや赤ちゃんの生死も握る、代用乳の役割について書かれた一節を紹介します。
※本稿は浦島匡、並木美砂子、福田健二 共著『おっぱいの進化史』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです
残された子どもの命をつなぐ代用乳
動物園や水族館では、ストレスなどでお母さんが子育てを放棄してしまい、代用乳で育てなければならないことがよくあります。
代用乳は入手しやすい牛乳を原料として調製するわけですが、動物の種類によっておっぱいの成分は大きく異なりますから、それぞれ成分を合わせなくてはいけません。
例えばダマヤブワラビーのおっぱいに含まれるミルクオリゴ糖のガラクトオリゴ糖は、平均で6糖くらいというサイズの糖です。これは乳糖よりも分子量が大きいという特徴があります。分子量が大きいということは、乳の中の糖のグラム含有量が高くてもモル濃度は低いので、糖質の量が高くなっても高い浸透圧を招きません。
そのようなカンガルーやワラビーの仔に乳糖の多い牛乳を飲ませたら、小腸で消化しきれなかった乳糖が大腸に移り、浸透圧を高めて、たちまち下痢を引き起こしてしまいます。
そうならないよう、牛乳よりもおっぱいの中の乳糖の割合が低い種では、代用乳の中のその一部を、あらかじめ酵素の働きでブドウ糖とガラクトースに分解しておく必要があります。ブドウ糖とガラクトースは小腸で吸収されるので、大腸での浸透圧上昇の原因とはならないからです。
オーストラリアでは、有袋類が交通事故にあうケースが後を絶ちません。交通事故で死んだカンガルーやワラビーのお母さんの袋から、生きている子どもを保護して代用乳で育てている心優しい人たちもいます。もちろん代用乳では、乳糖は分解されて減らされてはいますが、カンガルーなどの乳に含まれるミルクオリゴ糖がなければ、子どもの成長は遅れます。