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大学教授が「おっぱいは特別」と熱弁する理由

浦島匡,並木美砂子,福田健二

2020年01月21日 公開 2024年12月16日 更新

人は「哺乳類(ほにゅうるい)」に分類されます。読んで字のごとく「乳で哺くむ(はぐくむ)動物」。つまりおっぱいで子どもを育てることが、哺乳類の証なのです!

しかし、よーく考えてみると、鳥類、爬虫類、両生類、魚類…と、他の脊椎動物のグループにはおっぱいがありません。ある日突然、哺乳類のご先祖さまの体に乳房が現れ、乳汁を出したわけではないはずです。

帯広畜産大学教授の浦島匡氏をはじめとする生物学者たちが「おっぱいは、いつどこから現れたのか? どのように進化してきたのか?」の真実に迫る書『おっぱいの進化史』より、人にとって「おっぱいがいかに重要か」を語った一節を紹介します。

※本稿は浦島匡、並木美砂子、福田健二 共著『おっぱいの進化史』(技術評論社刊)より一部抜粋・編集したものです

 

「おっぱい」はいつから白かったのか?

はたして、おっぱいはどこからやってきたのでしょうか。

これは哺乳類の出現と進化にかかわってくる、いまだ大きな謎の1つです。

哺乳類とは、読んで字のごとく「乳=おっぱい」を飲ませて子どもを育てる動物の分類群です。私たちヒトもそのなかまであることは、理科の時間に学んでいます。

私たち哺乳類の最大の特徴であるおっぱい(日本語では乳汁と乳房の両方を意味します)の起源については、生物学の上からも解明が待たれる重要なテーマです。

哺乳類がどのように誕生し、現生の種までどのような進化を遂げてきたのか、これについては、さまざまな研究が行われて解明されてきています。

また、哺乳類の祖先から哺乳類へと進化していくどの段階で、おっぱいを分泌するようになったのか、大昔の地層から発掘された化石からも研究されています。

でもよく考えてみると、現在のような白いおっぱいを出す生物が急に現れたとは思えません。はじめは、分泌の方法も成分も、今とはちがっていたはずです。

今日のおっぱいに含まれる成分は、進化の過程のさまざまな段階において獲得されたものだと考えられます。

私は大学生であった頃は、ミルクというとウシが出したもので、ヒトがもらう食べ物だというイメージしかありませんでした。

大学から大学院に進学した頃は、牛乳に含まれる乳糖を焼いたときに出てくる香ばしい香りやちょっと焦げたような色を出す化合物にどのように
変わっていくか、という研究をしていました。まさに食品科学の研究課題です。

でも大学院の授業の中で、アメリカのジェネスという先生の書いた、いろいろな哺乳動物のおっぱいに含まれる成分についての論文を読み、おっぱいの中は多様な哺乳動物の赤ちゃんにとって、生きるために最も都合のよい成分が、都合のよい割合で含まれていることを知りました。

海の中でくらすクジラや、冬ごもりの途中で赤ちゃんを産むクマのおっぱいにも、子どもを成長させるための生理にあった成分が含まれています。そこに生物の進化と適応の神秘性を感じることができました。

また恩師足立達先生の書かれた『牛乳―生乳から乳製品まで 』(味覚選書、柴田書店、1980年9月、絶版)という本の、「オーストラリアのカモノハシやハリモグラのおっぱいには、乳糖は少なくてフコシルラクトースやジフコシルラクトースの方が多い」という一文になぜか惹きつけられました。

「おっぱいの中の糖は乳糖である」とは高校の化学の教科書にも書かれています。でも牛乳だけではなく、ほかの哺乳類のおっぱいについても広く眺めてみると、そんなに単純なことではないと気づかされたからです。

牛乳を原料にしてヒトや動物園で飼育している動物への育児用調合乳を作るためにも、ヒトや多くの動物のおっぱいに含まれる成分の分析をし、そして含まれる成分の役割を解き明かしていかなければなりません。

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「おっぱい」は進化して身につけた特別な存在

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