良品計画を成長体質に変えた実践組織改革
2020年02月05日 公開 2023年01月12日 更新
実行力のある人材と組織は「仕組みづくり」で育てる
経営感覚に富み、実行力のある人材が次々と育つ。そんな理想的な組織は、どうすればできるのか。「無印良品」ブランドを展開する良品計画の経営の舵取りを担い、成長への盤石な基盤を築き上げた松井忠三氏は、“仕組みづくり”こそ要諦と語る。その実践と考え方について詳しくうかがった。
取材・構成:坂田博史
写真撮影:にったゆり
※本稿は、マネジメント誌「衆知」【2019年3・4月号】特集「後進を育てる」掲載記事を転載したものです。
業績不振の最大の原因は「経験主義」にあった
「無印良品は、仕組みが9割」
私が常々言っている言葉です。経営の現場から離れた現在でも、講演などの場で、どのように仕組みをつくればいいかと、よく聞かれます。
実際、私は「無印良品」を展開する良品計画の経営において、商品開発や販売、新店舗の出店など、あらゆる分野で成果を上げる仕組みを生み出してきました。ですから、企業の成長には仕組みづくりが大事であるということは疑うべくもありません。
しかし、注意していただきたいのは、ただの「儲かる仕組みづくり」ではないということ。「人や組織を成長させるための仕組みづくり」でなければ、結局のところ持続的な発展につながらず、意味がないのです。これは、私が良品計画の経営に携わる中で確信した一つの真理といえるでしょう。
では、どのような仕組みづくりをすれば、人や組織が成長するのか。その要諦をお話ししたいと思います。
私が良品計画の社長に就任したのは2001年のこと。業績不振で良品計画が初めて赤字に転落し、早急な経営の立て直しが必要とされた時期でした。
当然、不良在庫の処理や人員の配置転換、不採算店舗の閉鎖など、着手できるところからどんどん進めていきました。しかし、それらのテコ入れで、ある程度の経営改善はできても、やはり限界があります。対症療法ではなく、根本的な原因を探り、そこに変革のメスを入れなければ、本当の経営再建には至りません。
これまでの「負ける構造」を根本から改め、「勝つ構造」にする必要がある。それには組織風土のあり方から変えていかなければならない。そう考えたのです。
当時の良品計画の組織風土を一言でいえば、「経験主義」でした。それは良品計画が元々、西武百貨店や西友などを中核とした、「セゾン」というかつての一大流通グループから誕生したことが少なからず影響しています。セゾングループでは文化や感性を重んじる風土があり、ビジネスにおいても、科学的なアプローチよりも経験が重視される傾向にありました。
具体的に特徴を挙げると、人事異動が少ないというのもその一つ。例えば、新入社員として経理部門に配属されたら、その後もずっと経理畑を歩みます。係長、課長、部長と昇進していく中で、目の前の上司や先輩の背中を見て経理マンとして育つわけです。
販売の部署でも同様で、店長は自分の成功体験を部下に伝えて育てていました。そうなると、組織立ったオペレーションが構築されていかず、個々人の経験にもとづくやり方に留まってしまいます。つまり、店長が変われば、店づくりから商品の展示の仕方まで、全部変わってしまうことになるのです。たとえそれまでの業績がよくても、です。
私が販売の責任者になった当初、「この店舗の業績はどうして悪いのか?」と部下の課長に質問したことがありました。すると、返ってきたのは、「人災です」という答え。意味がわからず、どういうことか聞くと、「店長が悪いから業績が悪い」とのことでした。
商品開発の部署でも同じです。「衣料品の業績が悪いのは、開発責任者が悪いからだ」ということで、3年間で5人の責任者を変えていました。
市場では企業対企業で戦っているにもかかわらず、勝敗の原因が店長や開発担当者といった人だけにあると考えている時点で、勝つことはできないでしょう。むしろ、人に起因するものなど、全体のわずか数パーセントです。
最も幼い組織は、このように勝敗の原因をすべて人に求めます。そして次に幼い組織は、「たまたま、やり方が悪かった」と考えます。どちらも経験主義で、組織としての成長など期待できません。
このような経験主義の考え方を一掃しなければ、市場では絶対に勝てない。そう判断した私は、あらゆることを「仕組み化」する必要があると思い至りました。
社員に意識改革を説くだけではあまり成果は望めませんが、きちんと仕組みをつくれば、社員の考え方や行動が変わります。また、たとえ一人ひとりの力が弱くても、仕組みでそれを補い、改善を積み重ねていけば、組織としての成長につながり、競合にも勝てるようになるはずだと考えたのです。