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社会

世界が注目するハラリ教授が示した、「新しい疾病」を解決してしまう者の正体

ユヴァル・ノア・ハラリ,柴田裕之(訳)

2020年03月13日 公開

『サピエンス全史』で人類の「過去」を、『ホモ・デウス』で人類の「未来」を描き、世界に衝撃をあたえた新たなる知の巨人、ユヴァル・ノア・ハラリ氏。その著作はビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグ等、世界の著名人の多くから激賞され、熟読された。

そのハラリ氏が新作『21 Lessons』では、これまで触れらなかった人類の「現在」に言及。この世界における真実、そして人生の意味まで、現代を生きるわれわれが直面している21の重要テーマを取り上げ、正解の見えない今の時代に、どのように思考し行動すべきかを問うている。

本稿では、オーディオブック化もされ触れられる機会が広がった同書より、「雇用」について触れた一節を抜粋して紹介する。

※本稿はユヴァル・ノア・ハラリ 著,柴田裕之 訳『21 Lessons: 21世紀の人類のための21の思考』(河出書房新社刊)より一部抜粋・編集したものです。

 

神が創りたもうた人間をコンピュータが理解することはできないのか

AI革命とは、コンピューターが速く賢くなるだけの現象ではない。それに気づくことがきわめて重要だ。この革命は、生命科学と社会科学における飛躍的発展によっても勢いづけられる。

人間の情動や欲望や選択を支える生化学的なメカニズムの理解が深まるほど、コンピューターは人間の行動を分析したり、人間の意思決定を予測したり、人間の運転者や銀行家や弁護士に取って代わったりするのがうまくなる。

過去数十年の間に、神経科学や行動経済学のような領域での研究のおかげで、科学者は人間のハッキングがはかどり、とくに、人間がどのように意思決定を行なうかが、はるかによく理解できるようになった。

食物から配偶者まで、私たちの選択はすべて、謎めいた自由意志ではなく、一瞬のうちに確率を計算する何十億ものニューロンによってなされることが判明した。自慢の「人間の直感」も、実際には「パターン認識」にすぎなかったのだ。

優れた運転者や銀行家や弁護士は、交通や投資や交渉についての魔法のような直感を持っているわけではなく、繰り返し現れるパターンを認識して、不注意な歩行者や支払い能力のない借り手や不正直な悪人を見抜いて避けているだけだ。

また、人間の脳の生化学的なアルゴリズムは、完全には程遠いことも判明した。脳のアルゴリズムは、都会のジャングルではなくアフリカのサバンナに適応した経験則や手っ取り早い方法、時代後れの回路に頼っている。優れた運転者や銀行家や弁護士でさえ、ときどき愚かな間違いを犯すのも無理はない。

これは、「直感」を必要とするとされている課題においてさえAIが人間を凌ぎうることを意味している。もしあなたが、AIは神秘的な「勘」に関して人間の魂と競う必要があると考えているのなら、AIには勝ち目はないだろう。

だが、もしAIは、確率計算とパターン認識で神経ネットワークと競うだけでいいのなら、それはたいして手強い課題には思えない。とくに、AIは「他者についての」直感を求められる仕事では人間を凌ぎうる。

歩行者がいっぱいの通りで乗り物を運転したり、見知らぬ人にお金を貸したり、ビジネスの取引の交渉をしたりといった、多くの仕事は、他者の情動や欲望を正しく評価する能力を必要とする。あの子供は今にも車道に飛び出そうとしているのか? 

スーツを着たあの男性は、私からお金を巻き上げて姿をくらますつもりなのか? あの弁護士は脅し文句を実行に移すつもりか、それとも、はったりをかけているだけなのか? 

そうした情動や欲望は非物質的な霊によって生み出されていると考えられていたときには、コンピューターが人間の運転者や銀行家や弁護士に取って代わることがありえないのは明白に思えた。というのも、神が創りたもうた人間の霊を、コンピューターが理解できるはずがないからだ。

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「雇用の喪失」はITとバイオテクノロジーの融合から発生する可能性

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