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男性がなかなか言えない「女性が心をひらく“ひと言”」

黒川伊保子(感性リサーチ代表取締役社長)

2020年05月11日 公開

 

心の対話の始め方(2) 話の呼び水

もう一つの始め方は"話の呼び水"を使うこと。自分に起こった出来事をプレゼントするところから始めるのである。

「今日、こんなことがあって」(久しぶりに会う人なら「最近、こんなことがあって」)という切り出し方だ。これが呼び水となって、相手が自分の出来事を語り、心の文脈が紡がれていく。

本当に何でもないことでいい。

「あそこの土手、1月なのに菜の花が咲いてたよ」
「今日は久しぶりによく晴れたね」
「今読んでいるミステリーに○○っていう料理が出てくるんだ。知ってる?」
「お昼に麻婆豆腐食べたら、辛くてさぁ。まだ、舌がしびれてる気がする」
「このCMの曲、若いときに夢中で聞いたな」

とか、そのとき頭に浮かんだことを言えばいいのである。

なお、「スルーされても、いっこうに気にしない」が大事なポイント。話の呼び水は、相手のためにすることだ。相手がおしゃべりする気分じゃなければ、スルーしてもらえればいいのである。私たち女性は気軽にスルーし合う。スルーも想定内なのである。

あるいは、ちょっとした相談をもちかける。

仕事仲間に「娘の誕生日のプレゼントが浮かばなくて」「この辺に美味しいラーメン屋なんかる?」、家族に「カレーの味、見てくれない?」「仕事の企画書でアイデアが出ないのよ。こんなとき、あなたならどうする?」などと、頼りにするのも手だ。人は、頼りにされ、感謝してくれた相手に情が湧くものだから。

親子では、特に後者を多用したらいい。私は息子が4歳のときから商品企画の相談に乗ってもらっていた。これが幼児なりに、なかなか含蓄のあるアイデアをくれるのである。

小学生の彼が出したネーミングが採用されたこともある。夕飯のメニューの相談、本棚の整理の仕方、何でも相談したらいい。親子の会話は盛り上がり、子どものほうには達成感もある。対話力も身につく。

この話の呼び水、プロセス指向共感型の脳には自然に浮かんでくるのだが、ゴール指向問題解決型の脳はなかなかそんなわけにはいかない。

私は、仕事の関係で、ゴール指向問題解決型に偏っていたとき、家に帰る前や、女友達に会う前に「話の呼び水」のネタを考えるようにしていた。ノーアイデアじゃ、心の文脈が紡げなかったから。

ネタのために本を読んだり、出先で地元で評判のパン屋さんをのぞいたりもしたりしていた。その晩、家族と、心の対話を始めるために。

何かに失敗して「とほほ」な気分になったときなんて、「家族や友達に話せるネタが増えた」と思って、ちょっと嬉しくなったりしていたくらいだ。

ゴール指向問題解決型の人はこうして、かなり意識しないと、「話の呼び水」は作れない。帰り路に「何から話そうか」と作戦を練る必要があるかもしれない。

けれど、それだけの努力をした甲斐はきっとある。ビジネスシーンであっても、気づきを必要とするときには、対話の始め方がカギを握っている。

たとえば、あるヘリコプター運用会社のケース。パイロットたちの「ひやりとしたけど、事なきを得た」「はっとしたけど、なんとかなった」という、トラブルすれすれの事例を集めて共有し、ヒューマンエラーを未然に防ごうというプロジェクトにおいて、なかなか事例が集まらないという相談を受けたことがある。

話を聞いてみると、事例入力にはノルマがあり、さらに入力フォーマットには5W1H的な項目が並んでいた。これでは、ゴール指向問題解決型の神経回路を誘発してしまうので、「記憶の中に潜んでいるちょっとした気づき」を引き出すことはできやしない。

そこで、私は、雑談型のヒアリングを導入してほしいと提案した。たとえば、空を降りた先輩パイロットが、「昔、こんなことがあって」などと口火を切ってくれれば、「あー、それなら、似たようなことが」「そういえば、私も」のように引き出せるからだ。

心の対話は、リスクヘッジの鍵。危険と共にあって、すばやい判断を要求される、ゴール指向問題解決型に偏っているビジネス・カテゴリこそ、心の対話の導入を心がけなくてはいけない。年齢を重ねたベテラン社員を活用するといい。

ヒトは、50代半ばすぎから、男女共に共感力が高まることが確認されている。「年をとると涙もろくなる」はその一例。こういう熟年パワーを使わない手はない。

 

心の対話の始め方(3) 弱音を吐く

最後に、とっておきの奥の手を。弱音を吐くのである。
先日、ある男性に相談を受けた。

――うちには12歳、7歳、2歳の子どもがいて、妻は専業主婦です。一日中家にいて、ママ友も多いタイプじゃないし、大変だろうなぁと思うので、話し相手になろうと努力している。

「子どもたちは、どう?」「今日は何してた?」のように話題を向けるけれども、妻は億劫がって、あまり話をしない。かといって僕が自分の話をしても、上の空。最近は始終不機嫌で、「末っ子が育ったら、離婚したい。その日が楽しみ」と言い出す始末。どうしたらいいかわからない。

たしかに、3人の子育て真っ最中の妻は、心身共に過酷なまでに忙しい。そんな妻に、「今日はきれいだね」「会社のビルの植え込みにタンポポが咲いてた」なんて言っても「はぁ?」と言われるのがおちだ。

彼女と対話したいと思ったならば、弱音を吐くしかない。「今日、部下に、こんなこと言われてさぁ。とほほだよ」「駅で階段を上がるおばあちゃんの荷物持ってあげたら、なんでエレベーターがないの、って責められた。駅員じゃねえよ」のように。

心をつなぐテクニックの奥義は、「弱音を吐いて、なぐさめてもらう」なのである。そうアドバイスしたら、質問者の男性は「疲れている彼女に負担をかけたくない」と眉をひそめた。でもね、その心配はない。脳は、インタラクティブ(相互作用)で活性化する。自分の行為で、何かが変わる。これが最大の快感である。

つまり、一方的にしてもらうことより、「してあげて、相手に変化が起こる」ことのほうが、満足度が高いのである。ときに、ネガティブ・インタラクティブ(相手が傷つく)をもって快楽とする邪悪なタイプもいて要注意だが、多くの人間は、ポジティブ・インタラクティブ(感謝される、喜ばれる)をもって快感を得る。

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