結論から知りたい!
事実文脈を作り出すのは、ゴール指向問題解決型の脳だ。
最初にゴールを見定め、すべての資源(意識、手間、時間)を、そこに集約していく脳の使い方をする。
このため、ゴール(結論、目的)のない話には、耐えられないのである。目的がわからない話が延々と展開されると、「目的」を探そうとして、脳がくたくたになってしまう。
妻の話が「今朝シーツを2枚も洗濯したのに、風が吹いて竿が外れて、汚れちゃったのよ」なんて始まったら、夫の脳は「この話、どこにいくのだろう」と探り始める。
しかしながら、女の話は、たいてい男を裏切る。「そろそろ乾燥機付き洗濯機を買いたいって話か?」なんて身構えていると、「夕方、コロッケを買った話」になって戻ってこなかったりする。
長い話の間、ずっと洗濯の話を忘れない夫の脳は、ストレスが増大して、もやもやして、ぐったりしてしまうわけだ。
プロセス指向共感型の脳は、今日の出来事(プロセス)を語って、ほどよきところで共感してもらって、最後はねぎらってほしいと思って、この話をしている。
一方、ゴール指向問題解決型の脳は、この話の「問題解決テーマ」を探して、迷子になってしまうのである。
こういうときは、「今日ね、すごく忙しかったの。シーツを2枚も汚して、洗い直さなきゃならなくてさぁ。コロッケ作ろうと思ったら……」というふうに、前置きをするといい。
「忙しかった話」というゴールがわかるから、ゴール探索に入らなくて済む。ゴール指向問題解決型の脳のストレスは、劇的に軽減されるのだ。
「今日、ちょっと面白いことがあったの」「なんだか、心にひっかかってることがあって」などという前置きさえあれば、夫をストレスの海に沈めなくて済む。
これで、夫が「心の文脈」だなと気づいて共感してあげられれば、夫婦円満は末永く続く。
職場での会話の始め方
事実文脈の対話は、結論から始める。結論を出すための話し合いなら、その目的から言う。つまり、「この話のテーマは何か」を提示しなければならない。
ビジネス・タスクのほとんどにはゴールがあって、それを目指して処理を進めるのが“仕事”である。
つまり、職場の脳はゴール指向問題解決型に強くシフトしており、そこで交わされる会話は事実文脈で成り立っている。当然、テーマの提示から始めるのが基本だ。
上司には、「〇〇の件ですが、***になりました。理由は、二つあります」「〇〇の件で、相談があります」「〇〇の件で、確認したいことが3点あります」のように前置きをする。
部下にも、「企画書の変更点について、話がある。ポイントは四つね」のような切り出し方をする。
共感型の上司の場合、うっかりすると「あなたさぁ、○○だけは気をつけてって言ってたよね、私。あのときも、このときも。なぜ、チェック漏れが起こるかなぁ」とドラマティックな導入になってしまうことがある。
過去の同様の失態が頭をよぎるからだ。これは、同じ共感型の部下にはドカンと心に響く導入だが、問題解決型の脳でこれを聞くと、注意力散漫になってしまい、肝心の要点を聞き逃してしまう。
そのような場合、部下の側は、自分の聞き取り失敗を棚に上げて、「うちの上司は、話が取っ散らかってて、感情的」と判断してしまう。
共感型の脳は、深い気づきを生み出し、リスクヘッジで仲間を守り、思いもよらなかった新機軸の戦略を思いついたりする、職場の宝物だ。しかし、コミュニケーションにおいて共感型を全開にすると、不当に低い評価を受けかねない。
プレゼンテーションの冒頭とか、部下に心で反省してほしいときとか、「劇的な演出」をしたいときを除いて、「部下に何かを指示するシーン」では事実文脈を使うよう、心がけよう。
もちろん、朝一のちょっとした心を通わすための会話や、気づきを必要とする会議で、参加者の肩の力を抜くための会話は、この限りではない。こちらは、心の文脈をうまく使うべきだ。