「娘がいたら結婚させたいのは…」ラグビー日本代表の強化委員長が語る選手たちの魅力
2020年08月11日 公開 2020年08月11日 更新
(写真:吉田和本)
2019年のラグビーW杯で、日本代表は史上初めてベストエイトに進出するという快挙を成し遂げた。それから半年以上過ぎたが、躍動する選手たちの雄姿は、今も鮮烈な印象を残している。
日本代表強化委員長(現・ナショナルチームディレクター)の藤井雄一郎が、松島幸太朗、田中史朗(ふみあき)、アマナキ・レレイ・マフィなどのキャラクターを振り返る。
※本稿は、藤井雄一郎著『ONE TEAMはなぜ生まれたのか 世界と戦う力 』(PHP新書)より、一部を抜粋編集したものです。
3トライの松島幸太朗の図太さと優しさ
緊張で普段のプレーができない選手もいた初日のロシア代表戦にあって、ジェイミージャパンを象徴するタフさ、図太さを示した一人は松島幸太朗だ。タッチライン際のウイングのポジションで持ち前の走力を活かし、3トライを挙げた。
ジンバブエ人の父と日本人の母との間に生まれた松島は常に飄々としていて、自分のスタイルを崩さない。一方で実に愛らしく、人間味がある。口数こそ多くないが、チームでもひとりひとりの動きや様子をよく見ている。
孤立しがちな選手やスタッフに、自然な雰囲気でちょっかいを出すのである。そもそも相手の立場や年齢によって態度を変えることはないから、媚びた印象も与えない。
マイペースであることがフォア・ザ・チームの精神に映る希少な選手の一人といえる。彼の人間性を鑑みれば、ロシア代表戦での活躍もある意味で必然だった。
ジェイミーも悩んだ「戦術通りに動かない選手」
振り返ってみれば、ジェイミーがタフさを基準に選んだ31人のメンバーは、それぞれに明確なキャラクターを持っていた。
シャイで優しい松島に対し、同じウイングのマノことレメキロマノラヴァは底抜けに明るいムードメーカーだ。前向きだから、チームの空気を汚さない。マノは自らのパフォーマンスに絶対の自信を持つからか、時折ゲームプランと外れた動きをしがちだった。
しかし大会が近づくにつれて自己表現と規律遵守のバランスを保てるようになってきた。そもそもラグビーのチーム作りでは、一見すると枠に収まらなさそうな個性をいかに秩序のなかで成立させるかが問われることがある。
その意味ではナンバーエイトのナキことアマナキ・レレイ・マフィも、抜群のパワーとスピードを有する代わりに戦術通りの動きをするとは限らないプレーヤーだった。
白状すれば、どこまで彼を尊重し続けるかということをリーダー陣が私たちに相談してきたこともある。ジェイミーも、この件でギブアップしかけたこともあったのではないか。ただ私は、その話にはこう応じた。
「ナキは、塩なんや」
おはぎを作る時、砂糖やあんこだけの味付けでは一本調子な味になる。ほんの少ししょっぱい塩を入れることで、その甘さが引き立つのだ。規律を重んじる『ONETEAM』の日本代表にも「塩」は必要で、それにぴったりなのが他ならぬナキだったのだ。