「娘がいたら結婚させたいのは…」ラグビー日本代表の強化委員長が語る選手たちの魅力
2020年08月11日 公開 2020年08月11日 更新
究極の"勘違い野郎"田中史朗の強さ
ジェイミーとはハイランダーズ時代からヘッドコーチと選手の間柄だったフミこと田中史朗も、もともとはいい意味で「究極の勘違い野郎」である。
身体が小さく決して足が速いわけではないフミが、2013年にハイランダーズに入り、日本人初のスーパーラグビープレーヤーになることなど、10年前には誰も想像していなかったはずだ。
「日本ラグビーを変える」という一心でその立場にたどり着いたフミは、ベテランとして参加した日本大会でもリザーブのスクラムハーフとして、野球でいうクローザー(抑え投手)のような役割を全う。「勘違い」の末に積み上げた経験を活かした。
フミを見ていると、人が驚くような出世をするにはある程度の「勘違い」が必要なのではと思わせる。自分の強み、弱みをわかったうえで、突飛な目標を達成するよう努力した人間こそが大舞台で勝負できるのだ。
第三者から「うざい」「自分が見えていない」などと言われて「勘違い」の矛を収めたり、そもそも「俺はあかん」と過小評価したりするのでは困る。
「娘がいたら結婚させたい」ほどのいい男
スクラムを組んだりひたすら相手に突進したりするプロップの稲垣啓太は、不平不満を漏らさない我慢強さが魅力。何よりスマートである。ミーティングでは、コーチの指示を自分の言葉でかみ砕いて選手に伝えられる。
きっと将来いい指導者になるだろうし、私に娘がいたら結婚させたいくらいにいい男だ。ちなみにスクラムハーフの流大も稲垣に似たスマートさを持ち合わせている。彼についてはPHP新書『ONE TEAMはなぜ生まれたのか』のもう少し先の章で詳しく触れたい。
勝つには濃いキャラクターが必要
アウトサイドセンターに入るティムことラファエレティモシーは、「怒らない」という強みを持つ。人が怒っている時は、大抵パニックに陥っているもの。それに対してティムはいつも冷静だ。
華麗なオフロードパス(タックルされながらボールをつなぐプレー)や左足でのキックでスペースを切り裂くプレーは、理解したことを落ち着いてプレーで表現できる「怒らない」心とつながっているのではないか。
他方で、熱く燃え上がってくれる選手が向くポジションもラグビーにはある。フランカー、プロップとともにがつがつと身体を当て続けるロックはその代表格。なかでもジェイミーが好きだったろうなと想像させるのは、南アフリカ出身のヴィンピー・ファンデルヴァルトだ。
ヴィンピーは身長188センチと世界のロックの中では決して大きくないが、ディフェンスで計算できる分、チームで重宝された。試合ではひたすらタックルし、荷物をたたんでホテルに戻ったかと思えばすーっと一人で飲みに行き、時間になったらひっそりと戻ってくる。
木こりや仙人を思わせる気風は、ニュージーランドに元から住むマオリ族がルーツのジェイミーと通じるものがある。ロックではオーストラリア人のジェームス・ムーアも印象的だ。
もともと東芝でプレーしていたムーアをジェイミーが「宗像サニックスで採った方がいい」と言ったのは、私が宗像サニックスで監督をしていた2018年。私からすると少々幼い印象もあって「本当か?」と思ったものだが、ジェイミーはサンウルブズで指導したムーアの我慢強さを見抜いていたのだ。
付け加えれば、母国で無印だったムーアが自分を尊敬している点にもジェイミーは気づいていた。結局、ムーアはアイルランド代表戦で両軍最多のタックル数をマークするなど、ジェイミージャパンの防御網を支えた。
ロックにタックルを求めるジェイミーにとって、最も信頼できる選手の一人となる。感覚的な話になるが、勝てるチームの選手はポテンシャルと同時にキャラクターを持っているのではないか。
今回のワールドカップでも、3連覇を逃したオールブラックスに比べて優勝した南アフリカ代表の方が、小さくて力強いチェスリン・コルビ、黒人初のキャプテンであるシヤ・コリシ、とてつもなく大きいロック陣などキャラクターが立っていた。
明るい奴、やんちゃな奴、大人しく黙々と働く奴、賢い奴など、際立つキャラクターの集合体が結果的に強いチームとなるのだろう。