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社会

「ワクチンで製薬会社は大儲け」は完全なる誤解…思い込みをSNSで語る前に知るべきこと

中西貴之(サイエンスコミュニケーター)、宮坂昌之(大阪大学名誉教授)

2021年06月04日 公開 2021年07月09日 更新

 

「誰も儲からない」ワクチン市場で奮闘する製薬メーカー

"ワクチンって効かねーんだってまだわかんねーんですか
製薬会社が儲けるためのワクチンなんだけどな"

ワクチンは、誰か特定の一人一人に効く、というミクロな見方をした場合は確かに効かないこともあります。それでも、どんなに効きの悪いワクチンでも国民全体で考えると一定の効果はあります。

製薬メーカーや病院は、ワクチンで国民が健康になるよりも感染症になってくれたほうが儲かります。それでも、皆の健康を願い、愛する人を感染症で亡くして悲しむ人が一人でも減るように祈りながらワクチンに携わっているのです。それを実際の金額で示しましょう。

厚生労働省の資料によると「我が国の医療用医薬品市場は約6兆円の規模を有している。このうち、ワクチン市場は、全体の1%程度を占めるにすぎない。ただし、米国のワクチン市場の規模も、医薬品市場全体(16兆円)の約1%であり、必ずしも大きな市場とはいえない状況である。

日本国内のワクチン製造企業のワクチン事業による年間の売り上げは、一社あたり、数億円から約100億円程度であり、医療用医薬品の売上げ第100位の品目よりも少ない」のです。ちなみに世界のワクチン「市場」は6,600億円でトヨタ自動車の「純利益」より小さいのです。

ワクチンは誰も儲からない市場なのです。それでも製薬メーカーや創薬ベンチャーは多くの人の健康を守るためにがんばっているのです。

 

製薬メーカー側の広報活動も重要

"SARS-COV-2という分離も同定もされていないウイルスから、どうやってワクチンを製造しているのか製薬会社から説明をして欲しいです"

こちらは知識のアップデートが必要です。ウイルスを同定、単離して培養し、それを不活化してワクチンにするというのは、ワクチン研究の過去の王道としては指摘のとおりです。

現在は、そこからさらに一歩進んで、単離・培養できなくても、遺伝情報がわかれば、そこから被接種者の細胞の力を借りて抗原を作り出せるのではないか、その抗原をワクチンとして使ったら効果があるのではないかとの研究が行われています。

実際に、新型コロナウイルス感染症ではmRNAワクチン開発が先頭を走り、DNAワクチン開発がそれを追うような構図になっています。病原体を単離せずに化学合成でワクチンが作れれば、研究期間を劇的に短縮できて、製造も安全に行うことができます。

また、ウイルス本体を使用しないので事故による感染も起こり得ず、ワクチン研究の考え方としては非常に正しいと思います。

なお、製薬メーカーがこのような情報をわかりやすくアナウンスしていないということには、筆者も問題意識を持っています。

製薬メーカーのような、多くの人が関心を持ち、人の命に関わるような業種では、サイエンスコミュニケーターを複数人雇用して広報活動に力を入れていただきたいと思います。「説明をして欲しいです」という点だけは同意します。

また、そのような企業活動は、「科学情報=無料」、「科学解説=ボランティア」という現在の日本の悪しき習慣に終止符を打つきっかけになってくれるものとも期待しています。

 

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