ダイエット外来医として肥満に悩む多くの人々と接し続けてきた医師の工藤孝文氏は、我慢をするだけではダイエットはかえって失敗してしまうと指摘する。
工藤医師が実際に患者さんに行っている「行動療法」を記した同氏の新著『身体ミニマリスト』より、太ってしまう要因となる「食べ物依存症」について言及した一節を紹介する。
※本稿は工藤孝文著『身体ミニマリスト 空腹感の近くで暮らす』(インプレス刊)より一部抜粋・編集したものです。
「痩せたい」のに食べたら止まらない…食べ物依存症の可能性
「オフィスでいつもグミや飴を食べている」「テレビを見ながらおせんべいを食べてしまう」「ポテトチップスを食べはじめたら止まらなくなる」なんて経験はありませんか?
もし「痩せたい、食べたくない」と思っているのに、いつも何かを食べ続けてしまっているなら、食べ物依存症の可能性があります。
依存症とは、不安や緊張、憂鬱なことを和らげるために行なっていることを繰り返すうちに、脳内で繰り返しドーパミンが分泌され、脳の回路が変化して中毒状態になる症状を指します。
依存症になると、自分の意志ではやめることができなくなってしまいます。アルコール依存症、ギャンブル依存症、薬物依存症など、よく知られる依存症はどれもドーパミンの過剰分泌に慣れてしまった中毒状態で、非常に恐ろしい病気です。
こうした依存症は食べ物によっても引き起こされます。
食品の3大栄養素である糖質・脂質・タンパク質のうち、糖質と脂質の2つの栄養素は、快楽ホルモン「ドーパミン」や幸福ホルモン「セロトニン」を分泌させるため、食べるだけで脳は快感を覚えます。糖質や脂質でできた高カロリーの食べ物は、食糧がなかなか手に入らない原始時代には貴重なものだったため、食べることで快感を感じるようにインプットされているのです。
では、食べ物依存から抜け出すには、どうしたらいいのでしょうか。
依存の原因はおもに脳内ホルモンにあります。このホルモンをコントロールするには、行動療法によって、ホルモン分泌と密接に関わるメンタルの問題を把握し、ライフスタイルを改善していく必要があるのです。
ホルモンを制す者はダイエットを制す
前項までにたびたびホルモンが登場していますね。そう、脳内物質ホルモンは肥満と深く関わりがあるのです。脳内ホルモンの働きを知ることは、ダイエット成功への近道となります。ホルモンを制する者はダイエットを制する、といっても過言ではありません。
では、100種類以上存在する脳内ホルモンの中でも、特に肥満と深く関わる5つのホルモンを紹介していきましょう。
まずは皆さんもよくご存知の、幸福ホルモン「セロトニン」。
幸福感や心の安定、ストレス緩和などの働きがあります。ストレスや不安を感じると、セロトニン神経が弱ってセロトニンが不足します。
すると、脳はセロトニンの分泌を増やそうとして、簡単に分泌を増やしてくれる糖質を欲するようになります。イライラしているときに甘いものを欲するのは、セロトニンのせいだったのです。不足したセロトニンをなんとか増やそうとしているのですね。
また、セロトニンは、睡眠ホルモン「メラトニン」の原料にもなります。
ですからセロトニンが不足すると、メラトニンも減少して、睡眠の質を下げることになります。
睡眠が十分でないと、満腹中枢を刺激して食べ過ぎを防いでくれる、食欲抑制ホルモン「レプチン」を減少させます。
さらに、食欲を刺激する、食欲ホルモン「グレリン」の分泌が増えてしまいます。
もうひとつ、肥満に深く関わるのが、快楽ホルモン「ドーパミン」。
やる気や向上心を高める働きがあり、快感物質として知られています。しかしドーパミンが過剰に分泌されると、快感を求める欲求が暴走して、食べたい欲求が抑えられなくなり、前項で説明した、食べ物依存症を招きます。
このドーパミンの過剰分泌を抑える働きをするのが、セロトニンです。
このように「セロトニン」「メラトニン」「レプチン」「グレリン」「ドーパミン」、5つの脳内ホルモンは、食欲に直結した働きがあります。また、それぞれが相互に影響し合っていることも理解しておきましょう。
特に注意したいのは、「セロトニン不足」と「ドーパミン過剰」です。
どちらも「ニセの食欲」を招く代表格です。異常に甘いものが食べたくなったり、食べることがやめられない状態になったら、「脳内ホルモンのせいでニセの食欲が出てきた」と思ってください。
では「セロトニン不足」と「ドーパミン過剰」を招かないため、つまりは「セロトニンを増やす」にはどうしたらいいでしょうか。方法は大きく2つあります。