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生き方

いじめられ絶望していた小学生が、大人になって選んだ「他人と少し違う法律の道」

山崎聡一郎(『子ども六法』著者)

2022年04月13日 公開

「2011年にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65パーセントは大学卒業時、今は存在していない職業につくだろう」

ニューヨーク市立大学大学院センター教授、キャシー・デビッドソン氏のこの予測(2011年)が大きな波紋を呼んでから11年。当時、小学校に入学した子どもたちは、今年、高校3年生となる。まさに進路選択に直面する年齢だ。

当時、怪訝な思いで受け止めていた人々も、新型コロナ禍を経て、DX(デジタルトランスフォーメーション)が生活のあらゆるところに浸透してきた2022年現在、大筋としては、その予想は正鵠を射ていたと認めざるを得ないのでは無いだろうか。

そしてそれは、子どもを持つ多くの人にとっては、子どもに「働くこと」についてどのように教えていいかわからない、仕事についての自分の常識や経験が役に立たなくなっている、という不安につながっている。自分の子どものころには、未来の仕事は、すでに身近にある仕事だった。堅実な仕事というものも、はっきりしていたからだ。

『大人は知らない 今ない仕事図鑑100』(講談社)は、そんな実感から生まれた、未来に生まれるかもしれない架空の仕事図鑑だ。

SDGsをガイドに、未来に仕事が生まれそうな10のジャンルが紹介され、実際に生まれている仕事や技術の紹介や、仕事を始めた人のインタビューも掲載され、最後には<自分の未来の仕事の作り方>まで紹介している。

本稿では、同書から山崎聡一郎氏のインタビュー「わたしの仕事の見つけ方」を紹介する。

山崎氏は、自身がいじめられる側、いじめる側になった体験から、法教育によるいじめ問題の解決に挑み、2019年『こども六法』(弘文堂)を刊行。同書は、大ベストセラーになっている。

山﨑さんの仕事の見つけ方は、失敗や弱点も強みになるという意味で、子どもも大人も勇気づけられるものになっているように思われる。参考にしていただければ幸いだ。

【山崎聡一郎さん(『こども六法』著者/教育研究者・写真家・声楽家)】
1993年生まれ。大学で自身の経験を踏まえて「法教育を通じたいじめ問題解決」をテーマに研究活動を開始。研究奨励金を受給し、法教育副教材『こども六法』を制作。2019年8月に同書を弘文堂より出版。慶應義塾大学SFC研究所所員。ミュージカル俳優としても活躍中。

 

「わたしが受けていたいじめは犯罪だったのか!」

子どものときはへりくつ屋。大人にしかられても「なぜ?」「どうして?」と言ったり、納得できないと言い返したりするような子どもでした。

大人からしたら、賢い子である反面、めんどうくさい子どもだったと思います。成績もよかったので、同級生は気に食わないと思ったのでしょうか。

小学校では、五年生の終わりくらいからいじめのターゲットにされました。明確な理由もなく、「すかしている」「うざい」と言われ、毎日きついいじめにあいました。

6人に上に乗られる、鉄棒から無理やり落とされる、サッカーではまるでわたしがボールであるかのようにけられるなど、ありとあらゆることをされました。

ある日、下校途中に後ろからけられて倒れて左手首を骨折する大けがをしました。学校の先生に言っても「たいしたことないでしょ? 大丈夫なんでしょ?」という反応でいじめを認めず、形だけ相手の子どもたちに「ごめんなさい」と謝らせて終わりにされました。

相手も謝っているのだから許してやれ、お互いこれで終わりにしろと言うのです。両親が教育委員会に訴えても十分に対応してくれないし、「おおごとにしたくない」という感じで、なすすべもありませんでした。

小学六年生のときに、授業で日本国憲法を学ぶと、「人権はたいせつだ」と書いてありました。「自分の人権は侵害されているのに、なんでだれも守ってくれないんだろう?」と大きな疑問を抱きました。

いじめにあっている間は、絶望の毎日でした。ひどい目にあい続けていると、「自分には価値がないんだ」と思えてしまうんです。自尊心を維持するために、「今は力が弱いけど、社会的に強くなって、お金をもうけて、いつか見返してやろう!」と思っていました。

両親は味方になってくれ、環境を変えるために私立中学を受験することを勧めてくれました。地元の友達がだれもいない環境で中学生活をスタートできて、やっといじめから逃れられました。はつらつと、自分のやりたいことをやり始めることができたんです。

中学生になって図書館で初めて『六法全書』を読みました。自分が小学生のときに受けていたいじめは「傷害罪」「暴行罪」「名誉毀損罪」「侮辱罪」などに該当するのだと知って衝撃を受けました。

「わたしが受けていたいじめは犯罪だったのか!」と気づいたんです。

そして、名誉毀損罪や侮辱罪が「親告罪」であり、被害者であるわたしから加害者を罰するよう求めなければ裁かれることがないと分かりました。

法律を知って初めて、「そうか。自分が知らずに訴えなかったから、だれも助けてくれなかったんだ! 自分が救われなかったのは、法律を知らなかったからなんだ。法律の知識があれば自分を守る力になるんだ」ということにも気づきました。

けれども、中学では「いじめ加害者」になる経験もありました。中学二年のときに囲碁部を立ちあげたのですが、ある後輩とトラブルになり、彼が部活に来なくなるということがありました。結果、部員みんなで話し合って書面を作り、その後輩を退部させてしまいました。

悪気があったわけではないのに、大人数でひとりを追いこんでしまった。当時は自覚もなかったのですが、後になって考えればそれは「いじめ」でした。わたしは小学校時代はいじめ被害者だったのに、知らず知らずのうちに加害者になってしまっていたんです。この出来事は後々まで、わたしの心に残ることになりました。

 

「なんとか、法教育を応用する形でいじめの問題を解決できないか?」

「やりたいことは全部やって生きていこう」と思っていたわたしは、高校では部活を五つ掛け持ち。勉強を含め、活動的にすべてこなしていました。

あきっぽい性格ですが逆に言えば、同時にいろいろなことを並行してやるのに向いているんです。ひとつのことだけをやるともたないので、いろんなことをやってすべてを気晴らしにする、という方法です。

その中でも、歌うことが大好きで声が大きかったので、合唱部の活動に熱心に参加していました。練習は大変でしたが、コンクールで賞を取り、趣味で歌はずっと続けていきたいと感じていました。

その後大学では、テーマとして法教育を選びました。小学校でいじめ被害者になったこと、中学で知らず知らずのうちに加害者となっていたこと、『六法全書』を読んで「いじめが犯罪である」ことを知ったことで、「なんとか、法教育を応用する形でいじめの問題を解決できないか?」と考えたんです。

いじめを受けている子どもたちは、なかなか、自分から話しだせません。その理由には、「自分が悪いのか相手が悪いのか分からない」「こんないじめを受けているのはおかしいことなのか、自分で判断できない」というのがあるのではないでしょうか。

けれども法律できちんと、「こんなことをしたらそれは犯罪で、罰則がある」と説明されれば、「自分は悪いことをされているんだ。だから周囲の大人に助けを求めてもいいんだ」という思考につながるのではないかと思いました。

けれども、小・中学生に対して法律の知識や考え方を分かりやすく解説するという教育研究は、今までだれもやっていないものでした。現状の子ども向け法教育教材には「共通のルール」が欠如していること、また子ども向けの法律書が存在しないことが分かりました。

そこで、自分で『こども六法』の制作を始めることを決め、自費出版で形にしました。その後、大学の同期であるお笑い芸人たかまつななさんの本の出版協力をしていたとき、彼女を通じて老舗の法律専門書の出版社、弘文堂と出会いました。

弘文堂はすぐにわたしの『こども六法』の趣旨に賛同し、正式に出版することを決めてくれたんです。けれども法律専門書の出版社には児童書制作のノウハウはなく、計画は頓挫し、2年にわたってストップすることになりました。

それでもあきらめずに、「こういう本を出したい」と発信し続けていたのがよかったのだと思います。学生時代の知人が社会的なニーズのある活動を広告の力で支援する「Creative Capital」という活動に取り組んでおり、その活動のひとつとして『こども六法』を世に出すサポートをしたいと言ってくれました。

それで『こども六法』の出版資金を集めるために、※クラウドファンディングを実施することにしました。100万円の資金を集めることを目標に、支援募集ページのほか、募集ムービーを作成。「大人にとっての犯罪が、子どもの日常であってはならない」をコンセプトにしたムービーは、※SNSでも注目を集めました。

自分自身、いろいろな人に会いに行き、必死で売りこみました。活動の結果、当初の目標を上回る、334名から179万円もの支援を集めることができました。その世間的な反響を受けて弘文堂も、改めて本格的に出版に向けて動きだしてくれることになりました。それで晴れて、2019年8月に出版することができたのです。

【※クラウドファンディング】個人や組織が、ある目的のために、インターネットなどを通じて不特定多数の人から資金提供を受けること。またはその仕組み。
【※SNS】ソーシャル・ネットワーキング・サービス。インターネットを通じて人間関係を作れるサービスのこと。

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「自分の生みだせる価値のあることは何だろう?」

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