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“入浴シーン”が表すものは? 『ドライブ・マイ・カー』だけじゃない、世界が絶賛する邦画作品

伊藤弘了(映画研究者、批評家)

2022年03月27日 公開

第94回アカデミー賞では、日本の『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)が作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門にノミネートされている。日本映画初の作品賞獲得に期待がかかるところだ。だが、世界で認められた日本映画はほかにもある。この記事では、「日本一わかりやすい映画講師」の伊藤弘了氏が、世界に名を轟かせる"あの監督"の作品について解説する。

※本稿は、『仕事と人生に効く 教養としての映画』(PHP研究所)より抜粋・編集を加えたものです。

 

アジア初の作品賞『パラサイト』はなぜ評価されたか

映画の流行は、世の中の動きと密接に関係しています。

たとえば、2019年に公開された韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(ポン・ジュノ監督)は世界的な注目を集めましたが、それはなぜだったのでしょうか。

『パラサイト』は、第72回カンヌ国際映画祭で最高賞にあたるパルム・ドールを受賞したのを皮切りに、第92回米国アカデミー賞ではアジア映画として初めて主要3部門を含む四冠(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)を達成して、一大旋風を巻き起こしました。

作品賞は実質的な最高賞に相当するもので、外国語映画(非英語作品)が同賞を受賞するのは、92回にわたって開催されてきたアカデミー賞の歴史上、初めてのことでした。

『パラサイト』が国際的に高い評価を得られた理由は、たんに作品のクオリティが高かったからだけではありません。

その背景には歴史的な文脈があり、現代の映画界で主流派を形成しているリベラルな価値観が多分に影響していたと考えられます。

近年のハリウッド、およびアカデミー賞は人種差別問題(白いオスカー)やセクハラ問題(#MeToo運動)で揺れており、『パラサイト』の歴史的快挙は、白人中心主義からの脱却と人種的・文化的な多様性をアピールしたいハリウッドの思惑と合致していたのです。

映画は私たちの生きる同時代の社会を反映する鏡です。

映画の流行を追うことは、時代の潮目を見極める能力を鍛えることにつながるでしょう。話題の新作を見ることで世の中の流行りにキャッチアップしつつ、同時に批判的思考力を磨いていけば、刻々と移り変わっていく社会情勢のなかで確固とした存在感を発揮できるようになるはずです。

 

国際的な評価を受けている是枝裕和作品

『パラサイト』の前年にカンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を獲ったのは、是枝裕和の『万引き家族』(2018年)でした。

是枝は現代日本を代表する映画監督の一人と言っていいでしょう。早稲田大学卒業後にテレビマンユニオンに入社し、挑戦的なドキュメンタリー番組の制作で注目を集めました。

1995年公開の『幻の光』で映画監督デビューを果たし、2作目の『ワンダフルライフ』(1998年)でナント三大陸映画祭のグランプリを獲得します。4作目の『誰も知らない』(2004年)では主演の柳楽優弥が史上最年少かつ日本人で初めてカンヌ国際映画祭の最優秀主演男優賞を受賞しました。

『空気人形』(2009年)では韓国の俳優ペ・ドゥナを起用し、フランスで撮影した『真実』(2019年)では大女優カトリーヌ・ドヌーヴやジュリエット・ビノシュを起用するなど、日本という枠を超え国際的な映画づくりを行なっています。

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