「自分の人生」を生きる選択を
あなたが気に入られようとして身を削って生きてきた、その人はいまのあなたに何か助け船を出そうとしているだろうか。
その人に気に入られたいと無理をして嫌なことをした。その人に気に入られたいと体に鞭を打って消耗した。
その人は溺れかかっているあなたに何かをいましてくれているだろうか。
あなたが入学して喜んだ学校が、あなたが入社して得意になった会社が、生命力の低下したあなたに、いま何か救助の手をさしのべてくれているだろうか。
私は具体的なことをいっているのではない。それらが心の支えになっているだろうかということである。
苦しい時に、何の心の支えにもならない学歴や職歴を得るために、あなたはどれほど努力してきたことか。
愛情飢餓感が強ければ人は周囲に迎合する。それが人間の本性である。しかしそれが人間の本性でも、いまあなたはその迎合の無意味さを心底味わったのである。
嫌われるのを恐れてあなたは「好きです」と言ってきた。自分が嫌われないためにこういう迎合をして生きてきた。
「お茶、飲む? これおいしいのよ」と相手が言う。本当は飲みたくない。でも「飲みたい」と言ってきた。
すすめてくれたケーキは嫌いだけれども、「好きよ」と言うのが、あなたの日常生活だった。
辛い思いをして迎合しても、その人たちは苦しい時に誰も助けてくれない。あなたはいま心底体験でそのことを知った。
生命力の低下したいまこそ、人生というものはこういうものだと理解する時なのである。生きることに疲れた時、それは自分を理解する時なのである。
生きることに疲れたあなたは、それを理解するためにいままで辛い人生を生きてきたのである。
【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。