一流のビジネスマンとは一体どんな人物か。これまで数々の企業と仕事をしてきた経営コンサルタントの小宮一慶氏によれば、優秀な人物にはいくつかの共通点があるという。一流のビジネスマンの習慣を、小宮氏が実際に目の当たりにしたエピソードを交えながら紹介する。
※本稿は、小宮一慶(著)『経営が必ずうまくいく考え方』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
新聞を読まない社長の末路
2000年ごろ、講演後の懇親会で、少々印象的な人物に会った。
紹介してくれた人によると、一代で東証一部上場会社を作りあげたという。次いで紹介者が言うには、「彼は、新聞も本も全然読まないそうですよ」。
これは、私が講演で「経営者は新聞を読み、書物を読むべし」と語ったことへの、一種の挑発的なアンサーともとれた。
世の動きを新聞から読みとり、書物から原理原則と真理を学ばなければ、一流の経営者にはなれない、と私は常々話している。「だがこの人は、そんなことをしなくても成功しているではないか」─と、暗に言われたわけだ。
当時の東証一部上場は、今とは段違いのステイタスだ。そこへ一代で瞬く間に駆けあがるなど、そうそうできるものではない。新聞も本もなしにそれが叶ってしまった例に遭遇して、正直なところ、少なからず戸惑った。自分の仮説は間違っていたかもしれない、と思ったのは初めてのことだった。
だが、その戸惑いはほどなく消えた。その人物が逮捕されたのだ。粉飾決算が露見し、上場も廃止となった。あの懇親会の時点で、彼は新聞記事になるような所業に手を染めていたのだ。ことによると、彼は無意識のうちにその不名誉な未来を予見して、新聞を忌避していたのかもしれない─。そんな気もした。
ともあれ、仮説への疑いは晴れた。新聞、経営の原理原則、何千年もの間多くの人が正しいと言ってきたこと。この3つに日々接していない限り、経営者の成功はありえないだろう。
原理原則は見失いやすいもの
「日々」接すると言ったが、原理原則や真理は、「一度知ればそれで良い」というわけにはいかない。繰り返し繰り返し、ふれることが重要だ。なぜなら、人は、私も含めて、忘れるし、ブレることが多いからだ。
企業経営という「目の前の現実」に毎日向き合っていると、人はすぐにこれらを忘れる。
タフな交渉事、込み入った人間関係、抜きつ抜かれつの競争、数字にばかり気をとられ、世の中の流れ、正しい経営、事業を行なう本来の理由、志を見失ってしまう。優れた経営者は、そうした環境のもとにいるからこそ、常に原点に立ち戻る。
自らを振り返り、熱心に学ぶ。経営の複雑さや自身の責任の重さを思い知れば知るほど、勉強せずにいられなくなるのだ。その感覚を持たずにいられる経営者は、偽物だ。その成功には必ずどこかに、ひずみが内包されている。