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16歳の提案が動かす台湾...なぜ若い人の意見も通りやすいのか?

講談社編集部

2022年07月23日 公開 2024年12月16日 更新

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民主主義の基本といえば、多数決。多数決では、賛成・反対の2択を迫られ、全面的に支持できれば良いけれど、部分的には賛成だが、別の部分では反対ということも多い。

多数派がいつも正しいとは言えないし、少数派の意見が常に無視されるというのは、平等の原則に反している。

つまり民主主義の中で多数決は、きわめて不十分だが、大人数の意見を集約する適切な方法がほかになかったから、採用されてきたという面がある。

しかし現在、進化したデジタル技術を活用して、民主主義をバージョンアップさせようという試みが、世界のそこかしこで始まり、その代表格といえるのが、台湾だ。

台湾ですすめられているデジタル民主主義とはどういうものか?そこで目指されている「おおまかな合意」とはどういうことなのか…。オードリー・タンの伝記から抜粋して紹介したい。

※本稿は石崎洋司著『「オードリー・タン」の誕生 ~だれも取り残さない台湾の天才IT相』〈第2章3 vTaiwanとJoin〉(講談社)より一部抜粋・編集したものです。

【オードリー・タン(唐鳳) PROFILE】1981年台湾・台北市出身。台湾のデジタル担当政務委員(日本の大臣にあたる)。ITやビジネスの分野で大活躍し、「ITの神さま」と称される。33歳でビジネスから引退。2016年、蔡英文政権に史上最年少の34歳で入閣。政府と民主主義のデジタル化を推進している。2019年、アメリカの外交専門誌『フォーリン・ポリシー』のグローバル思想家100に選出。
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賛否を「おおまかな合意」に

「ひまわり学生運動」が起きたのは、「海峡両岸サービス貿易協定」という法案を、政府が強引に進めたことが原因でした。

「市民の生活に関わる政策には、市民の意見を聞くしくみが必要だ」

そうした声をもとに当時の国民党政権がvTaiwanとJoinというネットを使った2つの仕組みを作り出しました。オードリーはその実現と運営に大きく関わりました。

まず、政府からの提案のうち、意見が対立しそうなことがらについて、あらかじめ市民から意見を聞くというしくみがvTaiwanです。

国家レベルの大きなしくみでありながら、オープンソースの考え方を取り入れ、シビックハッカーたちに協力してもらったことで、vTaiwanはおどろくほど安く作ることができました。 

vTaiwanがうまく使われた例の一つとしてあげられるのが、オンラインでお酒を販売するのを許可するかどうかについての話し合いです。

この問題については、すでに4年近く議論が続いていて、話がまとまりそうな気配はまったくありませんでした。お酒のメーカーや商店は、オンラインでもお酒を売りたがる一方、未成年がかんたんにお酒を買えるようになるおそれがあると、強く反対する市民も多かったからです。

そこで、政府はvTaiwanのサイトに議題をあげました。すると、すぐに賛成派と反対派それぞれから、意見や提案が寄せられました。それぞれの提案はサイト上でだれもが見ることができ、賛成や反対の投票をすることができます。また、もっとこうしたらどうか、などのコメントもつけられます。

そして、なにより新しかったのは、これらの意見は、サイト上で目に見える形に表現し直されるということでした。このしくみのすぐれた点は、自分の意見が全体の中で、どんな位置にあるのかがわかることです。


※引用元リンク:http//congress.crowd.law/files/vTaiwan-case-study.pdf

ひとくちに賛成・反対といっても、その中身には幅があります。部分的に賛成、おおいに反対など、人によってちがうのです。

vTaiwanのしくみでは、アイコンがかたまっているところに自分のアイコンがあれば、同じ賛成(あるいは反対)でも、自分は多くの人と意見が近い、もし離れていれば、部分的に同じだけ、などと客観的に知ることができるわけです。

賛成か反対の2つしかないとき、そこに生まれるのは対立です。いま、SNSでも大きな問題になっている、激しい言葉でののしりあったり、中傷合戦のようなものが、はじまりやすくなるわけです。

しかし、vTaiwanでめざすのは『おおまかな合意』です。そう、以前、オードリーがアメリカのコンピュータ科学者デービッド・ダナ・クラークから学んだ、満足はできないかもしれないけれど、何ひとつ受け入れてもらえなかったという敗者もいない合意のことです。

ただ賛成か反対かだけではなく、意見や考えの「幅」を見せることで、「だったら、こうしよう」という、ちがいを乗りこえる提案を引き出すのです。

こうして、お酒をネットで売ることを許すかどうかについても、賛成派・反対派の両方が、次のような『おおまかな合意』に達しました。

 ・オンラインでお酒を売るサイトの数を制限する。
 ・支払いはクレジットカードのみ。
 ・商品の受け渡しはコンビニエンスストアとし、年齢を確認する。

こうすれば、子どもが不正にお酒を買うことは、まず不可能になります。

政府はこうした合意をもとに法案を作って、議会に提出しました。

ネット上でみんなの意見を出しあい、考えのちがいを目に見える形にすることで、4年近くももめていたことがらが、1か月たらずで解決してしまいました。

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